トキメキ図書室

The guide of a book & DVD related to craft arts

さまよえる工藝

002

さまよえる工藝

    さまよえる工藝

    柳宗悦と近代

    土田眞樹 著

    草風社
    2007年
    定価 本体4,800円+税

    amazon.co.jp
本書のあらまし

 スローライフやLOHAS(ロハス)など生活様式の多様化に影響しているのか、それとも、本書にあるように美術の消耗と停滞に関連してのことなのか、とにかく近年、実用的な器を扱う工芸ギャラリーが確かに増えてきている。
 今さらながら、なぜ「柳宗悦」なのかといえば、多くの矛盾やねじれを含んで誤解のもとにはなっていても、日本の近代を背景にした工芸思想として、これほど体系的でくっきりとした姿を整えたものは、ほかに見出せないからだと著者はいう。そのことに異を唱える余地のないほど、現代に至ってもまだ、あえて宗悦を土台にしながらそれを凌駕する、あるいは、日本の工芸を包括する新たな切り口の声明は届いておらず、次のコンテキストはまだ示されないままにみえる。目の前にそそり立つこの「柳宗悦」という大きな課題が、書き下ろしを含めて本書に収録された18篇の論文や、雑誌掲載のテキストなどの文章を執筆し続けてきた、著者の動機と情熱になっているような気がした。

本書の魅力

 「工藝」は日本が近代化する過程で、必要不可欠な枠組みを作り出すために用いられはじめた言葉という。つまり西洋の近代の芸術観と、明治時代の殖産興業の担い手としての役割の狭間という、中途半端な位置におかれ続けてきた。以来、純粋美術から除外された工芸は、美術の下層に置かれ、美術のみが繁栄してきたかにみえる。そこに問題意識をいだき、工芸を美術と対等の位置に立つもう一方の価値体系として再構築しようとしたのが、柳宗悦の試みだったとする。美術に接近していくのではなく、あくまでも美術との対照として工芸を体系づけようとした点に、柳宗悦の工芸論の独自性があると説いていく。
 本書の魅力は、宗悦の工芸論の優れた解説書としての性格はもちろんのこと、時を経ながら工芸に対する著者の関心が展開し、流れ、深まっていくのと歩調を合わせるかように、多くの読者もともに、心ときめかせながら読み進めることができることだろう。そして、富本憲吉がイギリス留学中に感じとったように、果てには、工芸に内包された唯一無二の、確かな「価値」のあることをはっきりと伝え、気づかせてくれることだ。
 是非の選択や復古主義としてではなく、問題解決のための糸口をつかむための一書になっている。

お薦め指数
味わい
読みやすさ
資料的価値
著者プロフィール

TSUCHIDA Maki  1960年、大阪に生まれる。大阪大学大学院博士課程単位取得退学。三重県立美術館学芸員を経て、帝塚山大学、大阪成蹊大学非常勤講師。第10回倫雅美術奨励賞受賞。他に「柳宗悦展」(三重県立美術館)企画など。
その他の著作:「近代日本デザイン史」(美学出版)共著、「ヴァン・ド・ヴェルド展」図録(東京新聞 他)など

バックナンバー