トキメキ図書室

The guide of a book & DVD related to craft arts

近代工芸案内

009

近代工芸案内

    近代工芸案内

    東京国立近代美術館工芸館コレクションを中心として

    東京国立近代美術館 編 著

    東京国立近代美術館
    2005年
    定価 本体857円+税

    amazon.co.jp
本書のあらまし
 日本の工芸史、なかでも近代から現代にかけての陶磁、金工、漆工、木工、染織など、工芸の歴史と、各々の時代の代表的で優れた作者や作品の特徴を知るために最適な、いわば教科書的な案内書がこの本だ。教科書的などといってしまうと、反射的に堅苦しく退屈だとか、難しいなどという印象を持たれるかも知れないが、本書に関してそれはまったくの取り越し苦労だ。
 親しみさえ感じられるテキストによって、読者の興味をそそりながら的確に作者や作品を位置づけ、また歴史的な要点や課題を伝えようとする。趣旨を外さず、しかも手を引いて導くように誘い、書き進められていく解説はとてもわかりやすい。
 序章では、通史として縄文から現代までがざっくりと紹介されている。続くI章では明治時代、II章が大正・昭和前期、III章~V章で、とくに戦後から1990年代以降が扱われ、この部分が本書の主要部となって編まれている。それに、掲載された作品のほとんどは東京国立近代美術館の館蔵品というから、常設展などでも実物を鑑賞するチャンスがあるものばかりだ。また近・現代の工芸を理解するための主だった「用語解説」、掲載作家を「主要作家解説」でさらに補足し、「近代工芸年表」も付記されている。
 職業上の必要や工芸を専門に学ぶ学生、またより深く作品を理解し、工芸作品にアプローチしようとする鑑賞家のための、必携のハンドブックといえるだろう。
本書の魅力
  この本の特徴は、なんといっても内容に安定感と信頼感があることだろう。
 その理由のひとつが、東京国立近代美術館の現役学芸員(研究員)らが中心となり、編集と執筆が行われていることだ。同館学芸員の原稿が書籍や雑誌などに掲載されることはあっても、直接編集まで担当することはほとんどない。そのことは日本の工芸とその歴史を踏まえて体系的にとらえられ、一冊にまとめられているであろう信頼感につながっていく。全体の構成は普遍的で、実際にテキストを読んでいても、論理と感性がほどよく混ざり、文意にはどれも説得力がある。
 もうひとつが、掲載された作家と作品の選定だ。掲載作家は、初代宮川香山(1842-1916)から福本繁樹(1946-)まで116名、うち陶芸家がおよそその4割を占める。とくにIII章~V章では、様々な素材を扱う96名の作者と作品が紹介され、鑑賞者が歴史に沿って日本の現代の工芸に面と向かおうとするとき、欠くことのできない作家とその作品を偏りなく知ることができるよう、配慮されている。
 つまり本書には、工芸のひとつの基準が示され、書かれていると感じられるのだ。もっといえば、一度、この本の内容を軸にして日本の工芸を見直してみると、これまで抱えていた疑問が解け、新たな課題も浮かび上がるだろう。そのうえで、鑑賞者個々の意見や嗜好をはっきりさせれば、これまでより深い解釈ができるような気がする。
 また、陶芸の案内書として多くから支持されている「日本やきもの史」(美術出版社 1998年)は、縄文土器から現代までのやきものを幅広くテーマとして扱ってきた。そのためとくに戦後陶芸について、やや手狭に感じていた読者やファンにとっては、より時代が絞り込まれ、工芸全般をターゲットにしている点で本書は福音となるだろう。
 日本の工芸史を学び、主要作家と作品を知るガイドブックとして、とても秀逸な良書だといえる。
お薦め指数
資料的価値
読みやすさ
ヴィジュアル
著者プロフィール

.

バックナンバー