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知られざる魯山人

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知られざる魯山人

    知られざる魯山人

    

    山田 和 著

    文藝春秋
    2007年
    定価 本体2,857円+税

    amazon.co.jp
本書のあらまし
 早くから書や篆刻に秀で、後に、陶芸家として名を成した北大路魯山人(1883-1959)の作品に惚れ込み、人生の師と仰いでいたという著者の父は、地方紙の記者などをしながら、魯山人作品の頒布会等を開き、親しく接していたという。そんな環境に幼・少年期を過ごした著者自身にとっても、後年、魯山人の作は望郷の念に重なり、やがてそれは憧れへと転じ、自然にその生き方や美学に傾斜し、共鳴していった。
 それらが本書の下地に置かれていながら、しかし筆致はたえず冷静で、客観的であろうとしているのがよく伝わってくる。魯山人の没後50年を経ようとする時の流れにあってなお、魯山人を直接、間接に知る関係者など約80人に取材し、資料を丹念に掘り起こしつつ、これまでの誤りを示して合理的に修正していく姿勢からもそれは知れるだろう。
 この本は、「出生」「食客」「星岡茶寮」......と歩みを忠実にたどり、世に浸透している毀誉褒貶の魯山人像の背景をもう一度洗い、歪められた事実や思い違いなどを証拠によって正そうとする。これまであまり振り返られなかった角度から、その生涯を見ることにテーマがおかれた粘り強いルポルタージュであり、人間・魯山人探究のための一級の資料だ。同時に、北大路魯山人の名誉回復の書にもなっている。
本書の魅力
 他書でも取り上げられ、割と知られたこんなエピソードが書かれている。
 丁稚奉公していた、今でいう小学校高学年頃の少年だった魯山人は、京都の町中でたまたま見かけた行灯看板の絵に心を奪われ、異常に執着したという。これが後に、横山大観とともに文化勲章を受章する日本画家・竹内棲鳳(栖鳳)の描いたものだったというから、その鑑賞眼に大方の読者は驚かされるだろう。そしてそれを継いで、「当時この歳での奉公は特殊なことではなく」、金持ちの子弟でもなければ働きにでるのは当たり前だった、と記されるところに本書の特徴がある。
 恵まれない幼少時代、不幸な出生......というステレオタイプなこれまでの捉え方にひと言を挟み、明治時代の日本の社会では、生まれたばかりの子を里子や養子に出すこともしばしばだったと付け加えるのを忘れない。こういう点にこそ本著の魅力とこれまでにない新しい解釈があって、それらは全編に及んで読むことができる。
 また、こんな日本の陶磁史への提言なども見つかる。1930(昭和5)年、魯山人の星岡窯で働いていた荒川豊蔵(陶芸家 1894-1985)による、岐阜県・大萱の牟田ケ洞古窯での志野茶碗の陶片発見は、志野焼が愛知県・瀬戸ではなく美濃地方で焼かれた実証となった。「この歴史的発見は現在荒川のものになっている」が、魯山人の情熱と先見性、さらに経済的な支えなどがあっての成功だったことから、将来はふたりの功績と改めるべきという。もちろんすでにそのように位置づけられ、書かれている書籍や資料もあるような気もするが、著者の思いが滲み出ているように感じられる。
 古陶磁に理想を見つけ、それに倣って作るのを作陶の動機とし、結果として、20万点以上ともいわれる夥しい数の優れた器を作った北大路魯山人の仕事には、やはりオリジナリティーが感じられる。またそのことによって、後世の現代陶芸のマーケットの奥行きを広げることにもつながっていき、残した足跡や影響は大きい。
 不世出の才があった魯山人を含めて、ものを作ることとは、やはり作者自身を表現するものだと、本書を読んでいて強く感じることができる。
お薦め指数
資料的価値
ストーリー
読み応え
著者プロフィール

YAMADA Kazu  1946年、富山県生まれ。73年から福音館書店に勤務し、93年に同社を退社。以降、フリーとなる。2007年に本書「知られざる魯山人」で第39回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。他に「インドの大道商人」(平凡社)、「インド ミニアチュール幻想」(平凡社)で講談社ノンフィクション賞を受賞。「インド 旅の雑学ノート」(ダイヤモンド社)、「瀑流」(文藝春秋)など多数。訳書に「喪失の国、日本--インド・エリートビジネスマンの『日本体験記』」など。

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