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ロンド RONDO

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ロンド RONDO

    ロンド RONDO

    上・下 刊

    柄澤 齋 著

    創元推理文庫
    2006年
    定価 本体各800円+税

    amazon.co.jp
本書のあらまし
 事故死した天才画家によって描かれた謎の絵画作品「ロンド」のテーマは、死だった。
 これまでほんの数十人しか見たことのないという、その絵を取り巻いて、猟奇的な連続殺人事件が起きる......。登場人物は、画商、美術批評家、美術館館長やキュレーター、作家、美術誌の編集者、そして事件に組み込まれつつ謎解きに挑み、真相の解明に導く主人公は若手気鋭の美術館学芸員という設定だ。創作としての物語の展開を愉しみつつ、一方で、現代の美術業界の裏事情が描かれ、その矛盾や問題点をゆっくりと説いていく様が強いリアリティーを生んでいる。
 また、円熟した巧みな修辞があちこちにみられ、日本語の読み物としてもなかなか秀逸だ。そんな魅力を織り交ぜながら、読者を退屈させることなく、いつの間にか最終章にまで運んでいってしまうのは、著者に備わった書き手としての真価なのだろうと思う。
 それにしても、登場人物たちによって随所で展開される美術解説は、熱気を帯びていて実に執念深く、絵画の鑑賞法、あるいは勝れた批評として堪能できる。虚構のミステリーのなかでの科白であるとはいえ、しかし、もちろんそれについて筆者はしっかりと本気モードであると読める。
本書の魅力
 例えば本書の表紙や扉など、装丁に用いられているような絵を描いたり、個展で新作を発表するのが、この著者の長く続けてきた生業である。特に木口木版という版画の一技法によって描かれたそれらの絵画に魅了されるコレクターは多く、当代の人気版画家のひとりといえる。そしてその傍らで、エッセイなどを書く文筆の仕事でも知られてきた。そんな著者による、初の試みとしての小説がこの大冊となった。
 決して集注を緩めず、精緻に、徹底して描いていく姿勢は、絵でも文章でも変わりのないこの人ならではの性質といえる。もちろんそのことは、本書でもいかんなく発揮され、細部の描写には殊更な精気が傾けられていく。しっとりとした湿度や温もり、陰影、それに匂いまでもが仔細に紙へと移し取られる。文字による絵画表現ともいえそうなそれらの背後にあるのは、美術に関する見識は薬籠中のこととしても、古典音楽、食、さらに植物や昆虫などへ向けられる筆者の広汎な知的執着を裏付けにした、深遠な眼差しをもってする観察と理解にほかならない。それらを枝葉として濃密に張り巡らせ、極上の猟奇的な美術ミステリーという物語を構築し、堅固な大書に編み上げて成功している。
お薦め指数
味わい
スト-リ-
読みやすさ
著者プロフィール

KARASAWA Hitoshi 1950年に栃木県に生まれる。73年に日本版画協会展新人賞受賞。74年、創形美術学校研究科版画課程修了。77年に日和崎尊夫らと「鑿の会」を結成。86年、「死と変容」シリーズの制作をはじめる。94年、版画集「NINE NUTS」「方丈記」を出版。96年に版画集「植物の睡眠」「柄澤齋木口木版画集 1971-1996」が出版。2003年、小説「ロンド」で第17回下野文学大賞を受賞。06年、回顧展(栃木県立美術館、神奈川県立近代美術館 鎌倉)が開催される。

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