トキメキ図書室

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へうげもの

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へうげもの

    へうげもの

    モーニングKC

    山田芳裕 著

    講談社
    2005年
    定価 本体514円+税

    amazon.co.jp
本書のあらまし
 やきものや器に興味や関心を持って歩きはじめると、大方の場合、そう遅くなく「織部」という言葉にきっと出会うはずだ。それほど、現代の陶芸を扱うギャラリーや器店には、織部とキャプションの付された器がごく普通に並んでいる。発祥の地、岐阜県・美濃地方に活動の拠点を持つ作陶家ばかりでなく、今や全国あちこちで仕事をする作者によっても作り続けられ、いまだに鑑賞者や使う側の人気も衰えを知らないように見える。
 これらの器・織部焼とは、元々は戦国時代の武将で、また利休門下にあって茶の湯の名人とも呼ばれた古田織部(1544-1615)の好みによって、美濃の窯場で焼かれて一世を風靡した陶器の総称であり、すなわち様式名だ。
 本書「へうげもの」は、そんな織部(古田重然〈しげなり〉、通称・左介)を主人公に設定し、とくに茶の湯の深奥と妙、道具の美や魅力が随所で丁寧に描かれていて、動乱の日本社会や歴史的な人物らによる覇権争いが、茶事を介して渾然となって物語が進んでいく歴史漫画だ。
 また2011年4月からは、本書を原作としてNHKのBSでアニメーションが放送(全39回)されている。
 なお、タイトルの「へうげもの」(剽げ者)とは、ふざけたり、滑稽なことをいったりしたりする者をいう。
本書の魅力
 古田左介(織部)が主君・織田信長から、難題を命として受ける場面からこの物語ははじまっている。武将として、信長、秀吉、家康らに仕え、大名であった織部は、むしろ武将としてよりも茶人としての足跡や功績がよく知られている。
 ところが茶人といえば、侘茶を完成させた日本の茶道の大成者・千利休(1522-1591 宗易)が、これまで小説やドラマなどにもたびたび登場するお馴染みの大役者だ。で、織部はというと、そんな利休のとくに優れた弟子たち、利休七哲のひとりに数えられるのだから、数寄者として相当と認められていたことが分かる。そして偉大な師・利休の亡き後、名実ともに茶の湯の第一人者としての務めを果たし、活躍した。
 そんな織部が主役となったこの物語の特徴は、毎回のように伝世の名品が登場してキーとなり、織部ら当時の武将たちの命懸けの忠義をベースに、他方、名器に対する所有欲、あるいはそれらの茶道具を通じてつながる人の縁、運命などが綾となって程良くからみ、歴史的事件が大胆に展開していく趣向だ。
 美術、工芸ファンにとっては、名物茶器はもとより、楽家初代・長次郎や本阿弥光悦、また長谷川等伯、小堀遠州など、現代の日本の芸術文化を築いた多くの先駆者らも登場し、なかなか刺激的だ。さらに茶陶などの専門的な用語については、ところどころで注釈が付されていて、分かりやすい。なかには、本文のネーム中には明らかに唐物として特定されて書かれているのに、注釈には高麗物が解説されるなどのチグハグもあったりするが、茶の湯ややきものに関心を持っていて本書を開く読者には、一層の興味もそそられることだろう。
 そして本書を読み続けながら感じるのは、なぜ心地よさが持続するのかということだ。それはこの作品には、分かる者にだけ分かればいいというような、傲慢無礼さがないからだと思う。
 それにしても、いわゆる織部焼には器としての面白さがあったとしても、単なる様式の踏襲としてではなく、織部を使ってなにを作るか、このやり方でなにが作れるか、ということが、古田織部から課せられた現代の作陶家へのテーマではないか、と気づかされるような読み物でもあった。
お薦め指数
ヴィジュアル
読みやすさ
ストーリー
著者プロフィール

YAMADA Yoshihiro 1968年に新潟県に生まれる。立正大学在学中、ちばてつや賞の一般部門に「大正野郎」が入賞、1987年、同作にて漫画家としてデヴュー。1992年に「デカスロン」(週刊ヤングサンデー/小学館)を連載。2005年より「へうげもの」(週刊モーニング/講談社)の連載がはじまる。2009年度文化庁メディア芸術祭のマンガ部門にて「へうげもの」が優秀賞受賞、2010年に「同」にて手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞。2011年4月から「へうげもの」がNHKにてアニメ化され、BSプレミアムにて放送。

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