トキメキ図書室

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うつわの手帖

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うつわの手帖

    うつわの手帖

    [1]お茶

    日野明子 著

    ラトルズ
    2008年
    定価 本体1,800円+税

    amazon.co.jp
本書のあらまし
 今ひとつはっきりとはしないが、どうも「器」と漢字で現すイメージは、少し時代遅れの、古臭いものになりつつあるようだと、この頃感じられるようになってきた。
 街からはせともの店が消えていき、とはいえ、骨董などは実用品としての普段使いにはやや不向な場合が多く、新鮮さや清潔感も薄い。それよりも「うつわ」が面白そうだと、関心を示す若いファンが増えてきた。工芸ギャラリーや専門店、また雑貨店のコーナーなどで展示されていたりする、センスのよい作り手によって作られる時代を呼吸するような器たちは、昨今、「うつわ」として紹介されることが多い。その周辺には、新しい使い手と作り手たち双方の交感が、自然に行われているように思えるのだ。
 そして本書の書名にもこの「うつわ」が使われていて、陶磁、漆、金属、ガラスなど、素材にとらわれないお茶(煎茶・番茶・コーヒー・紅茶......など)にまつわる美しく、使い勝手のいい現代の「うつわ」が、美しく落ち着いた佐藤藍氏の写真とともに見開き完結で取り上げられている。
 作品とともに、もちろんその作り手たちである50名(軒)ほどの個人作家、工房、団体・組合などが織り交ぜて紹介され、興味に後押しされて読み進むにつれ、著者の感じ方の一々に感心し、やがてふわりとした共感が生まれてくる。そして「うつわ」とは、現代の多様な暮らし振りにピタリと一致した、心地よくカッコいい道具としての器類なのだということに、はたと気づかされるのだ。
本書の魅力
 まずひとつ、本書に書かれている内容に強く膝を打ったことを挙げておこう。
 個人的な見解だとしてはいるが、世の中には「磁器人間」と「陶器人間」がいるというのだ。これがどんな種類の人たちかは、読む楽しみに残しておくことにして、著者のこんな軽妙さや個性的なユーモアがあちこちに埋め込まれている点でも、魅力的な本だ。
 その道のプロとして、「うつわ」が商品として備えていなければならない様々な要素や価値を見抜く著者のジャッジには定評がある。これまでに関与してきた多くの展示会や企画などを見ても、そうだと知れる実績が豊富だ。それらの経験を通して鍛えられたアンテナから、世の中の暮らしと志向の変化を機敏に感じ取り、「うつわ」文化を牽引するひとりである著者ならではの「うつわの見方」と「うつわ作り」を、側面から、また裏側からも愛情深く記録している。
 こういうページもある。著者自身が長く愛おしみながら酷使し、「こんなことになってしまって作者に申し訳ない」とまで記す文章の横には、その言葉とは裏腹に、しかし堂々とした姿の粉引のポット(喜多村光史・作)の写真が掲載されており、読者はクスクスっと笑いながらも、ゆっくりとこころが動くのを自覚するだろう。
 丈夫、美しい、見た目より軽い、褒められる、お茶の色が映える......など、実際の制作現場を見て確かめただけでなく、自らがその「うつわ」を使ったリアルな感想と意見をもって執筆されており、いやがうえに説得力が増す。それが当たり前だろうといえばそれまでだが、粗製濫造が幅を利かせる世にあって、これは良心的で貴重な案内書といえるだろう。
 もちろんこの本を読んでの知ったか振りだが、いつか、ブランド趣味の友人の前でいってみようと思うことがある。「バカラのグラスもいいけど、キムラのグラスもなかなかいいらしいよ」と......。
お薦め指数
読みやすさ
ユーモア
ヴィジュアル
著者プロフィール

HINO Akiko 1967年に神奈川県に生まれる。共立女子大学家政学部生活美術学科在学中、工業デザイナーであり、クラフトの育成に尽力した秋岡芳夫(1920-1997)教授に影響を受ける。松屋商事株式会社を経て1999年に独立しスタジオ木瓜を設立。日本各地で制作する職人や作家らの良き手仕事を見て歩き、展示会や企画協力、アドバイザー、講演会などでそれらの作を多角的に紹介するクラフト・バイヤーとして活動。とくに素材を限定せず器全般に渡って幅広くカバーする。財団法人クラフト・センター・ジャパン理事。

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