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利休にたずねよ

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利休にたずねよ

    利休にたずねよ

    

    山本兼一 著

    PHP研究所
    2008年
    定価 本体1,800円+税

    amazon.co.jp
本書のあらまし
 侘茶を完成させた茶人として、あまねく知られる千利休(1522-1591)を物語の中心に据え、さらに利休を取り巻く人々の視点を加え、70歳で自刃する日から19歳までの時間を遡りながら、その生涯をたどって描いた時代小説だ。
 とくに工芸ファンにとっては、この物語のなかで利休がいつも懐の中に入れていて、重要な場面にはキーとなってたびたび使われる「緑釉の小壺」が、まず気になるところだろう。実在するものか、モデルはなにか、高麗、いや新羅なのか......など。それだけにとどまらず、名物道具があちこちで使われ、それらが活き活きと精細に描写されている。
 登場人物のなかでは、恐らく一般の読者より日頃から親しみを感じているであろう古田織部や、あめや(樂)長次郎は章が立てられていて、さらに関心が向くと思う。また、利休と師弟関係にある茶人は当然ながら、茶頭として仕えた豊臣秀吉、織田信長、さらに徳川家康、石田三成や細川忠興、黒田官兵衛など、歴史的な武将たちによる茶道具の目利きや美意識など、それぞれの受けとめ方がリアルに、個性的に綴られている。このあたりのやり取りが本書の要諦であり、利休の切腹も含めて、茶の湯を介した様々な人生が語られていて実に興味深く読める。
 直接、物語のなかでは言及されないが、これら茶人や武将らの会話が交わされている裏側に一歩廻れば、時代的には美濃や備前、伊賀など、日本のやきもののひとつの頂点ともいわれる桃山陶が焼かれていた事実があり、それは茶の湯の隆盛があったればこそという深い因果関係に基があったことを、本書を読むことで改めて思い起こされる。
 第140回直木賞受賞作に「利休」という名前が絡み、興味をそそられて手にした本書だが、期待を裏切らない内容であり楽しめた。
本書の魅力
 イエズス会のヴァリニャーノが、関白秀吉に謁見し、一服振舞われる場面がある。似たような道具であっても、大名物のように高価なものもあれば、一文の値打ちのないものも多いと聞いていた......。そこで彼は、なにがその違いなのかを知りたかった。それが、たずねたかったことのひとつであり、読者を代弁する問いでもあるはずだ。すると秀吉の脇に控え茶を司る坊主=利休が「それは、わたしが決めることです。わたしの選んだ品に、伝説が生まれます」と答える。
 利休は、美の司祭者としての絶対の自信があると、著者は読者に知らせようとする。ただしその一方で、目利き違いや、閨のしつらえを創意したり、また情交などにも触れられ、人間味あふれる利休像も描かれていて、それがこの物語の深みとなってゆっくりと底を流れていく。
 なかでもとくに、「利休の茶には、たしかにたおやかな品格と気高さがある」と大徳寺の住持・古溪宗陳に感想を述べさせながら、利休自身には「人は、だれしも毒を持っておりましょう。毒あればこそ、生きる力も湧いてくるのではありますまいか」といわせ、さらに「毒をいかに、志にまで高めるかではありますまいか」と語らせる一節が、ことさら印象深く記憶に焼き付いた。本当の「生きる力」とはなにか、と読み手が考えさせられるからだろう。
 それから、読者の立場によっても解釈が異なるだろう、こんなやり取りが書かれていて面白いと思った。
 19歳の利休が、後に師となる武野紹鴎に招かれる場面だ。床には耳付の伊賀花入が置かれてある。だが今ひとつ興が足りないと思う紹鴎は、しかしその方法がわからなかった......。ところが利休はたちまちひらめき、やおら釜の蓋を取るやいなや振り下ろし、花入の片方の耳を欠き落としてしまうのだ。道具を取り合わせ、しつらえる茶人はやはり創造的な表現者だと思う。そうして不完全な、枯れ寂びた美を尊ぶのはよしとしても、ただ見方を変えれば、花入の作者も表現者としての意識を持って、それを作っているのかも知れないということなのだ。
 茶の湯の道具を作ろうとするのか、それとも創作物を作り自己表現をしようとするのか、作品を外側から眺めているだけではとても分からない。ましてや近代以降、現代においてはなおさらそのことを考慮せざるを得ず、双方にとって避けては通れない「約束」があるようにも感じられる。茶の湯と工芸との、抜き差しならないそんな深くて複雑な、強いつながりが、歴史の中から立ち昇ってくるような気がした。
お薦め指数
味わい
サービス
ストーリー
著者プロフィール

YAMAMOTO Kenichi 1956年に京都市に生まれる。同志社大学文学部を卒業後、出版社、編集プロダクション勤務、フリーランスのライターを経て、作家となる。1999年に「弾正の鷹」で小説NON創刊150号記念短編時代小説賞で佳作となる。2002年、「戦国秘録 白鷹伝」(祥伝社)。2004年、「火天の城」(文藝春秋)にて第11回松本清張賞受賞。2008年には「千両花嫁-とびきり屋見立て帖」(文藝春秋)で第139回直木賞候補となる。2009年、「利休にたずねよ」にて第140回直木賞を受賞。その他の著書として「雷神の筒」(集英社)、「狂い咲き正宗-刀剣商ちょうじ屋光三郎」(講談社)などがある。

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