
0064号
2010年08月02日更新
本展の案内状には、緩やかに曲がる、これは陶のオブジェだろうか......? の写真が印刷されていて、続いてなかを開いて見ると、メリーゴーランドのように多くの動物たちが群れていた。
なにごとか知れず、どんな作に出会えるかを期待して、会場に向かうと、そこには陶による「干支」が展示されており、新緑の季節ということもあって少し驚いた。
昨今の滝口和男(TAKIGUCHI Kazuo)氏の主な仕事は、「無題」と呼ばれるシリーズ、手捻りによる食器制作、それに今回の干支もそこに含まれるだろう叙情的な陶の造形の、この3つのフィールドの間を縦横に往き来して活動している。ひとりの陶芸家のテリトリーとしては狭くなく、むしろ現在の創作の振幅はかなり広めで、とても積極的にみえる。
やや薄暗く照明が落とされた会場内には、作者自らが型を起こして作ったという錫製の支柱のうえに、多様な表情の十二支たちが乗せられている。おとぼけ顔や、ユーモラスな形態を見せる動物たちが多く、いわゆる癒し系のキャラだ。サイズは支柱を含めても20センチ弱ほどの高さだが、このスケール感は、会場で作品を見てみないと実感としてつかみにくいかも知れない。小さな作ばかりとはいえ細工は緻密で、各々の作には意外な存在感も伴い、ミクロの作品世界と現実との感覚の奇妙なズレのようなものが味わえ不思議な感じがする。
これら様々な表情をした作品の制作は、最初、言葉によってはじめられるという。「青空の上で」「新しい仲間と」「自由に」「自由は」「手仕事の」......など各テーマに沿ってそれぞれの状況を詳細に設定し、実制作に着手する。しかし、いったん言葉で決めたものではあるにせよ、作者は意識的に作りながら形を換え、展開させ、やがて言葉を越えていこうとする。言葉から発想しつつ、やがて言葉を離れていくことにより、ただのコンセプトとは異なる工芸的な強さや、面白さを見つけようとしているからだろう。
なお、本展のサブタイトルは「自由に」とある。これは作者自身が、過去の自己から解放された、という意味にも受け取っていいと思った。
上左●抒情豊かな独創的世界を作り上げるのは、この作者の特徴の一面に過ぎない。
上右●日本陶芸展(第10回 1989年)に「無題」を出品し、大賞・秩父宮賜杯を得てからすでに20年のキャリアを積んできた作者。