展覧会への招待

Exhibition previews & reviews

奈良千秋 のプレビュー&レビュー一覧
  • 2009年6月11日~2009年6月24日
  • 奈良千秋 展
  • 森田画廊 (東京都中央区銀座 TEL.03-3563-5935)
 シャープな造形を信条としていながらも、しかし柔らかな印象の磁器、というか、ほのかなあたたかさを残す白磁が焼ける稀な作り手が奈良千秋氏(NARA Chiaki)だ。
 なぜ、それらの作が作れるのかといえば、技術的な精度の高さが背景にあるのは当然として、この作者の美意識や生活感が作品にはっきりと現れていて、これらを鑑賞したり使ったりしようとする現代人の感覚に、それらがほぼ一致しているからと感じられるのだ。
 たとえば、いくつかの伝統的な陶産地でやきものを学んだ後、作者は最初の独立の地を東京都に定め、現在は長野県上田市に制作と生活の拠点がある。この選択は古典的な作品を知って学んではきたが、だが一方で、各陶産地の伝統的な様式や、産地に固有の作品形態などから拘束を受けずに意識的に距離を置こうとする、このような感覚だ。結果として、個人的な創作を尊び、それが自由に行えるような環境を整えようとしたのである。
 出品作のなかでそれらの特徴や個性を鮮明に示すのが、丸味を帯びたフォルムに、深く入れられた鎬(しのぎ)の鋭さが同居する面白さだ。ボディーが花の蕾のような、またカボチャのような形をした花入に、これらの魅力がとてもよく現れていると思える。出品作全体にいえるのは、冷たさや堅さに傾かない磁器の素材感を引きだし、さらに造形的には親近感を漂わせながらも決して洗練さが損なわれていないことだ。そしてその点こそが、この作り手の生活感と美意識の体現にほかならないと思えるのである。
 また、花弁型の鉢や皿への人気は衰えを知らず、相変わらず陶芸ファンからの支持は厚いようだった。これらの実用的な食器や小品からも、しっかりと丁寧に作り込まれているのが伝わるからだろう。
 なお、同会場では今回で17回展を数えるという。作者、会場、マーケット側の各々の思いが一体化しなければとても実現できない回数に到達していると感じた。なによりまずその端緒には、根強いファンの関心を刺激するだけの作品作りがあっての17回展と見るべきだろう。
上左●ゆったりとしたボディーラインと、鎬(しのぎ)の強さが渾然となって魅力を放つ「白磁鎬花入」(左 発表価格=157,500円)
上右●やきものの基本を瀬戸で学び、九谷などの窯元で修業を積んだ作者の工房は、長野県上田市の山深い高原にある。
カボチャのような形態のボディーの丸味と、口作りのシャープさが対比をなして不思議な魅力を放つ花入。
しっくりと手に馴染むカーブを描く「白磁徳利」(後左)、リズミカルに鎬が入れられた「白磁鎬水柱」(後右 発表価格=39,900円)は一転してシャープさが際立っている。
曲線を活かした柔らかな磁器の造形を引き出し成功している「白磁掛花入」(発表価格=31,500円)には、可憐な花がよく似合う。
会場にはおよそ100点(組)ほどの作品が並べられた。清潔感があり、また親しみの感じられるこれら磁器の器を、多くの女性ファンが熱心に見入っていた。