展覧会への招待

Exhibition previews & reviews

 19世紀半ばのイギリスに起こった美術工芸の運動、アーツ・アンド・クラフツといえば、ウィリアム・モリス(1834-1896)が提唱し、牽引したことはよく知られている。機械文明を批判し、人々の生活に結びついていた中世の手工芸を理想としたモリスは、家具、壁紙、ステンドグラス、書籍などのデザインを手がけて工房で制作し、モダンデザインの父とも呼ばれている。
 そしてそんなモリスの思想や仕事に共鳴し、長く行動をともにしたのが、ウィリアム・ド・モーガン(1839-1917)だった。イギリスの陶磁デザイン史に深い足跡を残した作家ながら、これまで日本ではほとんど紹介されなかったから、本展は作品や業績など全貌を知るまたとない機会になりそうだ。
 とくにド・モーガンの仕事は、1872年に陶器やタイルを制作する工房を開設したことがきっかけとなり、才能を開花させ、数々の傑作を残した。当時、工業的な大量生産によるタイルが増えるなか、やはり手仕事らしさを意識し強調した仕事が基本におかれている。ところで、タイル? と聞いてやや違和感を持たれるかも知れないが、日本では西洋と建築様式の違いもあってか、一般に装飾の抑えられたものが、水回りなどの限られた場所で実用的に使われるだけだからだろう。折しも英国、ヴィクトリア女王の時代(1837-1901)には、ヴィクトリアン・タイルと呼ばれるタイル文化が隆盛し、暖炉の周辺や通路の壁面など様々に使われて身近に感じられ、一方でその分、タイルの装飾的な役割はかなり重要だったと思われる。
 そんな背景があって、ド・モーガンのデザインしたタイルは、手仕事の良さを色濃く残しつつ、手描き転写という技法によって描かれた。また、釉薬や顔料の調合、窯の改良など窯業技術の面でも熱心に取り組み、そのため当時のどのメーカーのタイルよりも、艶やかで色に深みがあったものが制作されたのだといわれている。主な意匠には、ヒナギクやアネモネ、カーネーションなどイギリスの野や庭に咲く花々が好んで描かれ、これらがデザインとしてパターン化され、独特のリズム感が生まれていかにも楽しげだ。
 タイルばかりでなく、皿や花器、壺などにもデザインを施し、それらの魅力は、動物の絵柄などに濃密に感じられる固有のユーモアだった。鳥や鹿などの絵もありのままには描かれず、ヒョウやライオンでさえ、どこかエキセントリックに、とぼけたような雰囲気が漂っていて見ていて飽きない面白さがある。
 またもうひとつだけ加えていえば、9世紀のエジプトではじまったといわれるラスター彩の技法を再発見し、実験を重ねて、独自のラスター彩を開発してヨーロッパ陶芸史に功績を残したことも、特筆されるべきド・モーガンの仕事のひとつといえるだろう。
 ......それから100年以上の時を経た現在の日本。今、感度の高い一部の人たちの関心を熱く集める北欧デザインにも一脈相通じるようなド・モーガンの作風であり、さらに、後に日本でも活動した陶芸家、バーナード・リーチ(1887-1979)の作に影響を与えたか? とも思わせるような作なども展示されていて、そんなところも実に興味深い。
 本展では、ヴィクトリア朝時代の建築を鮮やかに彩ったであろう装飾タイルや壺など、19世紀の人々の暮らしに潤いを与え続けたウィリアム・ド・モーガンの代表作、およそ150点ほどが展示される予定。

 

上左●「錫釉皿-風変わりなクジャク」絵付:チャールズ・パッセンジャー 工房:サンズ・エンド・ポタリー 1888-1907年 (C)De morgan Foundation, Credit:Graham Diprose  上右●「タイル-ベッドフォード・パーク・ヒナギク」1872-1907年 (C)De morgan Foundation

「タイル-ベッドフォード・パーク・アネモネ」工房:サンズ・エンド・ポタリー 1888-1897年 (C)De morgan Foundation
「ラスター彩蓋付壺-トカゲ」工房:サンズ・エンド・ポタリー 1888-1907年 (C)De morgan Foundation,Credit:Graham Diprose
「皿-猛々しいライオンと葉」1888-1907年 (C)De morgan Foundation,Credit:Graham Diprose
ウィリアム・ド・モーガンの肖像 1839年ロンドン生まれ。王立美術学校に入学。63年にウィリアム・モリスと出会う。69年より陶器の装飾をはじめ、88年にサンズ・エンド・ポタリーを開設。1917年に死去。(C)De morgan Foundation