
0072号
2012年01月26日更新
石川県金沢市に本店を持つ老舗酒蔵(銀座店)での発表なだけに、テーマはもちろん、酒器を中心にした食器だ。なかでも異彩を漂わせて目を惹くのは、焼締めの器に透(すき)漆を塗って作られた一連の作。深い暗赤色と落ち着いた灰黒色の2種類が出品されている。とはいっても、この色は漆による着色ではなく、土と顔料によって導かれた発色という。なぜ、やきものに漆なのだろう? 古くから水漏れを防ぐ工夫として、土器などに漆を塗布したものが見つかっている。西川聡(にしかわ さとし)氏の作るこれら無釉の焼締め陶も、防水効果のために施されるのが第一の目的だ。それによって、料理の脂なども染み込みにくくなるという。もちろん、漆を塗ることによって装飾的な奥深い雰囲気が現れたり、独特の質感が得られることも理由のひとつだ。最後の工程で漆を何度も塗り重ね、そのまま自然乾燥させる時もあれば、さらに200度ほどの低火度で焼成し、完成作とする場合もあるらしい。
そしてそれらとは一転、趣向を変えたもうひとつの系統が、施釉ものの白い器だ。化粧土が刷毛目風に塗られたものや、青瓷のような作も出品されている。これらは、土と釉の一体感を意識しながら作られている。作域は異なっていても、こうした出品作に共通しているのは、抑制の効いた淡い個性を、しかし鮮明に打ち出す加減や姿勢がとても洗練されていると映ることだ。そして、昨今の「うつわブーム」の渦のなかで際立とうとするのではなく、むしろ一歩引いた作者なりの独自のフィールドに足場を守りながら、ニュアンスのある作を作ろうとしているようにも見える。
それは、30歳代のはじめ頃の一時期、スペインを拠点に制作し、アフリカ大陸や中近東などを旅しながら見て歩いた経験や蓄積と、まんざら無関係ではないかも知れない。とくに興味があったのは、アフリカで見た木工品だった。一見、原始的で粗雑に作られるようにいわれることの多いそれらは、しかし、よく観察するととても丁寧に作られていると思ったという。
本展に出品されている自作でも、小品に至るまで丁寧に仕上げられ、また一様に端正な姿形をしている。そして、極端な歪みや捻れを抑えたなかにだけ見出され、感じられる、静かな美しさを湛えている作が多い。クラフトという概念を視界の端に納めつつ、感覚や味だけに寄りかかって作ろうとしないこれらの器を見ていて、現代の生活のなかにふわりと溶け込んで生きる場所が、確かにあると思わされた。
上左●表面に透漆が塗られることにより、独特な表情を見せる銚子(発表価格=25,200円)と碗(同4,200円)。 上右●個展会場は1625年(寛永2年)創業という石川県金沢の酒蔵・福光屋の銀座店。酒器を中心に冬の食卓に相応しい器が展示された。