展覧会への招待

Exhibition previews & reviews

 藤本能道(FUJIMOTO Yoshimichi  1919-1992)は、東京芸術大学に30年近く奉職して教鞭を執り、学長などの重責を担って果たす傍らに、自身の個展などでは意欲的な新作を発表し続け、個人の創作活動にも手を緩めなかった。終生、そんな作り手としての姿勢を保ち、高みを目指した結果として、たとえば色絵磁器の技術保持者として重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定(1986年)され、名実ともに陶芸界に多大な影響力と足跡を残した作家だった。
 藤本陶芸の特徴のひとつは、写実的な描写による装飾表現にあるといえる。日本画の没骨描法を採り入れて描き、また上絵具の新色を考案したり、草白釉、雪白釉、梅白釉と名付けられた半マット質の白磁釉や、霜白釉という透明釉などを開発し、自作に活かしている。また釉描加彩と呼ばれる手法は、作品作りに欠かせないものだった。主に、絵に奥行き感を持たせるためにこの技法が用いられ、本焼の過程で背景などの模様を釉彩によって描き、その後さらに上絵付を施すことで、見ていても違和感のない、磁胎から上絵付までが一体化した絵画的な色絵が生み出された。また造形と模様の感覚的な一致を作陶の基本におき、とくに陶筥や扁壺などに強い独自性がうかがえるのも見逃せない特徴だろう。
 この展覧会で注目したいのは、出品作すべてが同館の「菊池コレクション」により構成されるということだ。なかでも、死の直前に開かれ、最後の新作展となった「陶火窯焔」(1992年)展の作品群が中心になっている。これらの作は、これまで公開が控えられており、まとめて作品が鑑賞できるまたとない機会になるだろう。作者が生と死を意識しながら、本展の副題にもあるように「命の残照のなかで」構想し、制作されたものであり、陶芸家としての到達点を極めて結実した、渾身の作だといえる。華やかななかにも寂寞感が漂う絵付からは、まるで渦巻くように凝縮された命のエネルギーが伝わってくるようで、ことさら印象深い作が多いと感じられる。
 またそれらに加えて、昭和天皇・皇后行幸啓の際の晩餐用に作られたディナーセット「幻の食器」(1976年)や、さらに1970年代、80年代の代表作など併せて50余点が厳選のうえ出品展示され、藤本陶芸の真髄に身をもって迫る内容になっている。
 なお、本展を開催するにあたり、アメリカの展示デザイナー、リチャード・モリナロリ氏により、藤本作品に合わせて会場が一新され、絹と和紙で織りなす展示室と色絵作品が融合した空間で作品が鑑賞でき、こういった趣向も他館では絶対に見られない本展の楽しみのひとつとなるに違いない。

 

上左●「霜白釉釉描色絵金銀彩炎と蛾図扁壺」H26.0 W24.8×16.0㎝ 1991年 上右●「霜白釉釉描色絵金彩花と虫図六角大筥」H8.2 W32.0×36.6㎝ 1990年

 

◆チケット・プレゼント
本展の招待券を、ペアで5組(10名)の読者の皆さまに抽選のうえプレゼントします。ご希望の方はお問い合わせフォームからお名前と、内容欄に「藤本能道展 チケット希望」と記入し送信して下さい。なお、発表は発送にかえさせて頂きます。


参考図版「ディナーセット 幻の食器」(部分)1976年
「色絵木蓮と鵯八角鉢」H15.0 W30.0㎝ 1976年
「釉描加彩樹陰宿鴉図四角筥」H8.0 W21.8㎝ 1987年