展覧会への招待

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 「富本憲吉記念館」(奈良県生駒郡安堵町)の創立者であり、兵庫県在住の収集家として知られた故・辻本勇氏(1922-2008)の遺族から、このほど富本憲吉(1886-1963)作品の寄贈(2008年12月 陶磁器120点、書画30点)が兵庫陶芸美術館にあり、それを記念した「受贈記念 富本憲吉展」がテーマ展として同館において開かれている。
 富本憲吉は、日本の現代陶芸を多少なりとも系統的に見ていこうとする場合、避けては通れない重要な作家だ。東京美術学校で建築と室内装飾を学び、イギリス留学を経て、生活に密着した芸術としての工芸を志すようになった。やがてやきものに傾倒していき、日本の近代陶芸への歴史の扉を拓いた作家として、我が国の陶磁史上、欠くことのできない陶芸家として位置づけられている。また作品は造形面から見ても、装飾性においても独創的であり高く評価されていて揺るぎない。
 また富本と同じ奈良・安堵町出身の辻本勇氏は、郷里で富本と出会って親交を結び、その人柄と芸術に深い尊敬の念を抱いたといわれている。そして、事業のかたわら富本作品を収集するようになり、作家の没後は、私財を投じて記念館の設立に奔走し、同館開設後は収集した作品を広く一般に公開してきたよき理解者だった。
 今回の受贈記念展に展示されている作品は、大和時代(1912-1925)42点、東京時代(1926-1945)59点、京都時代(1946-1963)19点と、各制作ステージに及んでいて偏りがない。技法でいえば、楽焼、土焼、青磁、白磁までの作品が含まれ、象嵌、筒描き、染付、色絵、金銀彩と多様多彩で、この作家の全貌をひと通り俯瞰することができる内容だ。とくに大和時代では楽焼などの最初期の作、独特な形状の白磁の壺や色絵磁器などは東京時代を代表するものとして見ることができる。また、京都時代からは、この作家を象徴する作域ともいえる作品なども展示されていて見逃せない。
 なお、芸術と生活の結びつきを視野に入れていた作家らしく、一品制作されたものばかりでなく、日常生活で使われることを目的とした作も含まれていて、これらは見ていると親近感も湧いてくる。この作者ならではの工芸思想の現れの一端として受け取れるだろう。
 コレクター・辻本勇氏の見識と情熱、富本陶芸の創意と美を重ね合わせて見て楽しむことのできる展覧でもある。
上左●「柿釉色絵丸窓富貴字飾箱」 1936年 作品はいずれも兵庫陶芸美術館蔵 上右●「楽焼富貴長春字徳利」 1913年

 

■学芸員によるギャラリートーク
 8月2日(日)、16日(日)、30日(日)、9月13日(日)、22日(火・祝) 各11時30分から

「染付色絵曲る道模様飾皿」 1957年
「鉄描銅彩花字皿」(5点組) 1956年
「赤地金彩梅花模様蓋付飾壺」 1931年
「染付蕎麦手八角蓋付壺」 1941年