0074号
2013年05月13日更新
独自に創案した様々な作風を巧みに操り、これまでいくつもの人気シリーズ作を生みだしてきた寺本守氏の新作展が開かれている。
本展では、それら定番の手法のうちのひとつ、銀彩にテーマが絞られ、壺型と縦長の花器、口部が広がった鉢などを中心に、およそ80点ほどが出品された。
素地土はすべて佐賀県・有田産の磁器土が用いられ、どの作もロクロ成形により、この作者らしい端正な形にまとめられている。また、銀彩による装飾模様はといえば、ストライプと風に舞うリボンのような模様の2種だ。この風にリボン模様の着想は、草書体のかな文字を見ていて思いついてデザイン化したイメージといい、ストライプと好対照を示していてなかなか興味深い。それらどちらの模様の作も例外でなく、寺本作品に総じて共通した特徴として、造形も装飾もともにデザイン性の強調された都会的洗練のようなものが感じられる。土もの、磁器もの両方を軽やかに往き来し、焼締めから上絵、象嵌......と、実に器用に多彩な技法をこなしながらキャリアを積み重ねてきた名うての作り手でもある。
茨城県笠間市に独立し、いつしか作陶歴も30年を越えた。本展以降、年齢的にも節目を迎えることから、これまでの作風をいったん忘れ、新たな大きな目標を掲げて制作に取り組む計画という。その一環として、来年中には新しいシリーズ作「須恵器風の灰釉作品」が、発表されるらしい。期待しながらその日を待ちたいと思う。
上左●「銀彩緑釉花器」。発表価格は300,000円 上右●昨今では、東日本伝統工芸展で鑑査員を務めるなど後進の指導にも当たっている作者。