
年の瀬が近づき、各工芸ギャラリーでは漆の企画展が多く開かれるようになってきた。そんななか、太田修嗣氏の新作展がはじまり、ファンらで会場は賑わっていた。
作者の工房は愛媛県の山中にあり、その地の利を活かし木地選びから塗りまで、一貫して自らで行っているという。本展出品作にも欅、楓にはじまり、沢栗、朴、栃、水楢、黄檗など多彩な素材が使われていて、恵まれた制作環境にいることが伝わってくる。実際に手に持ってみると、楓はやや軽くて使い勝手がよさそうに感じられ、水木は重くて硬質だが、丈夫なのだそうだ。それらの樹肌や木目をそのまま見せ、野性味が感じられるように仕上げた作がある一方、たとえば、根来風に漆を塗り重ねたものなども見受けら、どちらも魅力がある。塗りは他にも、曙塗、溜塗、拭漆などと作者特有の様々な手法が試されて、それぞれの表情も異なっていて楽しめる。また椀なら20,000円弱、通盆でも30,000円ほどから購入できる発表価格も良心的だと感じられた。
左●曙塗と作者がいう手法による鉢。右●野趣ある素材感が現れた長皿がアクセントに。