展覧会への招待

Exhibition previews & reviews

  • 2008年9月20日~2008年11月30日
  • 松尾直明 陶芸展
  • 無もん (群馬県沼田市利根町 TEL0278-56-2891)
群馬県の北部、関越自動車道の沼田インターを降り、国道120号線で尾瀬方面に向かう途中、山懐に抱かれた高原のアート・サロンとでもいうべきこぢんまりとしたスペースでの作陶展を見た。作者は唐津市に生まれ、兄の友文氏(故人)から陶芸を学んで修業した。そんな経歴からか、なかでも兄譲りの黒唐津が目を惹いた。ひと口に黒唐津といっても、深い柿色をしたものから飴色、そして黒まで様々あるという。本展出品の作は、漆黒部分から明るい灰黒色までを呈していて変化があってとても面白い。黒唐津は汲み出し(1,200円)や湯呑み(1,200円)から、鉢、皿まで出品されており、観客の評判も上々のようだった。他に朝鮮唐津、絵唐津、粉引なども展示されていた。
左●「黒唐津皿」の釉の発色は変化に富んでいる。 右●素朴なやきものに足を止めて覗き込む行楽客も多かった。
どんな料理にも相性のよさそうな「絵唐津鉢」。
「粉引皿」と「黒唐津汲み出し」のコントラストが新鮮だ。
  • 2008年9月 6日~2008年9月11日
  • 三上 亮 個展
  • 銀座 黒田陶苑 (東京都中央区銀座 TEL.03-3571-3223)
かつてのように、絵筆を一気呵成に運ぶ絵付の仕事はこの頃ほとんど見られない。本展の出品作でもそうで、茶碗や徳利、片口などの形は確かに馴染み深い作者らしさを感じるが、しかしこれらを作るために使われている土や釉薬、穴窯焼成することによって導き出された装飾性や素材感には、既存のやきものにない未知で、独特の世界観がある。「土ものの焼き方を、やっと見つけた気がする」と作者はいう。やきものの焼成を基本から改めて見直し、そこに生じてくるものを見逃さず、次にそれを独創的な形に採り入れようとする。そうして作られたものだけが、きっと時代を超えて生き続けるであろうことを、三上亮氏は証明しようとしていると思った。
左●「三面器」H38.0 W25.2㎝ 2008年 右●会場で観覧者と気さくに話す作者。
しっかりと焼き込まれた長方皿。
「三面器」には人気が集中し完売状態だった。
いかにも「やきもの」らしさが漂う湯呑み。

 昨年(2008年)、同会場で開催された展覧に続いての発表だ。宮脇昭彦氏がプロダクトに展開することを前提にデザインした器に、新たに赤絵を施そうというテーマは前回展から引き継がれるものだ。
 ところで、作者がプロダクト用に考案した器種の基本は、碗、鉢、皿。それら各々の側面の形状が異なるタイプに、さらに丸、角、撫で角など平面形状の違うもの、そこに各サイズを組み合わせて全体が構成されている。傍流として、茶器や調味料の器なども考案されているが、全種類を合わせてもせいぜい20余種と意外なほど少ない。もちろん現代日本の多様な食生活や住・生活環境なども考慮して、器形にはムダがなくミニマムで、用途にも過不足なく対応できるものが考えられている。
 そしてそれらの器には、無地の白磁と、染付による4種の模様(点、縞、ジグザグ、苺文)がつけられている。
 最終的に、今回新作発表されたなかのどの赤絵模様が、上記のプロダクト用として採用・展開されていくかは別として、伸びやかな縞などの線文、情感漂うドット、有機的な兎文などの活き活きした赤絵を見ていると、どれを選んでもすでに器の模様として魅力的で、しかも充分に整理されているように感じられる。作者自身によれば「模様を考えていると切りがない」そうだが、宮脇氏の持ち味の一面をとてもよく示しているようにも思われた。

上左●「四ツ碗(幾何文)」(発表価格17,500円)蓋は碗としても利用できる。もともとは茶懐石用の漆器の四ツ椀が発想の原点だとか。 上右●2008年に続いて同様のテーマで開催された新作展。器以外では、白磁の陶板や花入なども発表され、これらの作も衆目を集めていた。

宮脇昭彦氏がプロダクト用に型状をデザインした素地に、自らがオリジナルな赤絵を施すという展覧会が開かれた。今回発表されたこれらの絵付のなかから量産に向く意匠を選んで絞り込み、いずれ工場で生産されるベースの絵付にするプランという。とはいえ、これらは実験的な試みの仕事の水準になく、作者は完全な本気モード。どの作を眺めていても楽しく、すぐに食卓で使ってみたくなるような興趣を誘うのはさすがだ。それにプロダクト用の素地が使われているためだろうか、価格が廉価に抑えられている。径17㎝の「赤絵鉢」が6000円、「カップ」3600円、「クリーマー」4500円など、お買い得感もたっぷり味わえた。磁器土を無釉焼成した陶板も出品されて壁面を飾り、衆目を集めていた。
左●この陶板のような、器の用途から離れた仕事はほとんど見られない。 右●筆使いからは、作者の鼓動が伝わってくるようだった。

「赤絵マグカップ(小)」は5,000円。
量産されればもちろんこの「赤絵碗」も各サイズで補充がきくだろう。
こちらの陶板には足がついていて皿としても使える。
  • 2008年9月 2日~2008年9月 9日
  • 宗像利浩 作陶展
  • 日本橋三越 (東京都中央区日本橋室町 TEL03-3241-3311)
会津本郷の名窯・宗像窯の8代目当主を、父・宗像亮一氏から継いで以降、初の本格的な個展となった。会津本郷焼といえば、長く地域周辺の民のために素朴な日常雑器を焼き続け、明治以降も民芸様式の器制作を仕事の核にしてきた。そんななかにあって、宗像窯では亮一氏が民芸陶器から解放された自由な創作としての器作りの先鞭をつけ、利浩氏がそれに続いている。そのことを最も象徴的に示すのが、本展にも出品されている口辺が平たく成形された鉢や皿、また井戸や天目などの茶碗への果敢な取り組みだ。丈夫さだけにこだわる器作りからやや距離を置き、さらに茶陶にも取り組もうとする。それが幸いしとくに皿や鉢類には、ゆったりした広がりの中から湧き上がるような心地よい緊張を感じ、好感が持てる。もちろん長く使っても飽きないのは、宗像窯伝来の真骨頂だといえる。
右●出品作について語る宗像利浩氏。
「天目釉皿」の口辺は実用本位に丸められず、平に成形されている。
果敢に茶陶にも挑戦し、新しい自分を探ろうとする。
壊れやすいからとこれまでは水指に耳をつけることもなかったという。
襲名後、初の本格的な展観となったためか、終日賑わいをみせていた。

 南から瑞々しくカラフルな器たちがやってきた。作者は沖縄県那覇市在住の東恩納美架(HIGASHIONNA Mika)氏。期待の新進作家だ。会場に並んだ、あるいは壁に掛けられた作品には、絵具ではなく化粧土を使って抽象画のような模様が描かれている。そのほとんどが異なる配色と構図なので、まるで器という立体をキャパスにした「100+1」の絵を見るようで、興味をそらせない。
 その色に特徴がある。少女のような可愛らしさの一方で、どこか物憂げなのだ。しかも一色一色が厚く塗られ、筆を引きずった痕跡が油絵具のように固まって際立って見える。器の絵付としては、とても強い印象だ......。前に見た展示ではオフホワイトやグレイの色調が中心で、ソフトで都会的な器というイメージがあった。だからその違いに興味をもって作者に聞いてみると、「これが沖縄の色なんです」という。潮に焼け、退色した色こそ小さい頃からいつも身近にある風景なのだと教えてくれた。それを美しいと感じる気持ちが、一連の作品には込められていた。
 そんな言葉を聞いて展示を振り返ると、これまでとは違う沖縄の風景が見える気がした。展覧会には、思いがけず、こんな楽しみもある。
左●飾っても、もちろん盛っても楽しめる皿。8,190円
右●東京初個展の作者。沖縄県立芸大大学院を出て地元・沖縄に工房をもつ。まだまだ未知の引き出しがありそう。

会場では先客の何人かがすでに作品を購入。「今夜使いたいからと」大鉢を持ち帰るファンにも遭遇した。
作品上のアルファベットは作品名だったり、思いついた言葉だったりする。東恩納作品のひとつの特徴でもある。
手捻りで作られる形は1点ごとに表情が違い愛嬌がある。ビビッとくれば、今がお買い得。
皿としても使えそうな蓋物。各作品の下にはインスピレーションを得た風景のカラーコピーが添えてあった。
  • 2008年7月12日~2008年8月17日
  • 中島晴美展
  • 多治見市文化工房 ギャラリー ヴォイス (岐阜県多治見市本町 TEL0572-23-9901)
岐阜県恵那市を制作拠点とし、長く陶の立体造形のみを作り続けて評価が高い中島晴美氏の、地元での初個展が開かれ衆目を集めている。これらの作品は磁土の手捻りによって形作られ、転写紙を用いてコバルトの水玉を装飾したものだ。明らかに壺や茶碗とは異なるが、これは紛れもない「陶芸作品」と位置づけられる。作者の生理から生じる、また心情として内部に立ち現れるイメージと、磁土という素材とを違和感なく一体化させようとしてせめぎ合った結果としての陶の造形であるからだ。見事に均衡のとれた、またバイタルな作品を見ていると、多様な現代の陶芸のひとつの極を表しているようにも思えた。
左●関東や関西方面からも多くの観客や陶芸家らが訪れるほどの注目展だ。 右●中島晴美氏
広々した会場に13点の作品が展示された。
作品の発表価格は、200万円~80万円。
東京や関西での発表が中心で、地元・美濃では初個展だ。
初日には中島氏と金子賢治氏(左)のトークセッションも。(近日掲載予定)

2007年春、東京(東京国立近代美術館工芸館)からはじまったこの巡回展は、本会場でいよいよ締めくくられる。これまで岡部嶺男の全貌を知る展覧会はほとんど開かれてこなかったが、本展には代表作など選りすぐられた秀作170点ほどが出品されており、初の本格的な回顧展となった。40歳を過ぎてから、とくに青瓷の制作に没頭し、優れた作を多く残したことから、この分野での評価はすこぶる高い。しかし織部、志野、灰釉などの大胆で、かつ緩みのない造形性にも圧倒的な迫力がありこれらも見逃せない。岡部陶芸を知る絶好の展観だ。                                                                  左「窯変米色瓷博山炉」H19.8 W17.4㎝ 1971年 右●「織部縄文瓶」H45.8 W36.2㎝ 1964年

愛知県常滑市で作陶を続け、すでにベテランの域に入った伊藤雄志氏の新作展が開かれた。この作者の特徴は、陶と磁の両の素材を巧みに操り、ストレスなく相互の間を往き来して成果を得ていることだ。このあわいに身を置きバランスを取ることが、作域に好影響を与えているという。なるほど、練込みの磁器はモダンな意匠の軽やかな仕上げ、一方の粉引など土ものは、丁寧に作り込まれた趣ある雰囲気になっていて、異なる性格が楽しめる。また手間のかかる塩釉を好んで用いる点にも特徴があり、独自な素材感となっている。径20センチほどの鉢や皿でも30,000円以内で入手でき、良心的価格は特筆に値する。

左●「塩釉彩皿」W19.0㎝ 右●角型の皿にも人気があった。

新作について話す伊藤雄志氏。
「粉引浅鉢」は普段使いにいいサイズだ。
壁面に展示された「塩釉彩皿」。
  • 2008年5月 9日~2008年5月20日
  • 壺愁 岡部嶺男展
  • しぶや黒田陶苑 (東京都渋谷区渋谷 TEL.03-3499-3225)
情熱を傾け、同店ではここ数年来毎年のように「岡部嶺男展」を開催している。とくに今回の展覧で出色だったのは、7点ほど展示された瓶子だろう。灰釉、飴釉、織部などの種類があり、いずれも堂々たる存在感と異様な雰囲気をまとっている。古作に倣いながらも、作者の卓越した造形力が際立ち、土や釉の広汎な知識、焼成の巧みさなどが組合わさらなければ、これらの作を作れないだろうと思わせる。それほど尋常でないものをダイレクトに感じるのは、ガラスケースを通さず、至近で鑑賞できるという条件が整っているためばかりではないだろう。丁寧な作りの図録も発行され、さながらプチ美術館の仕事のような展覧会だった。                                          左右ともに●展示会場には、ふだんあまり感じたことのないような雰囲気が漂っていた。