展覧会への招待

Exhibition previews & reviews

  • 2008年11月21日~2008年11月23日
  • クラフト見本市
  • 台東デザイナーズビレッジ (東京都台東区小島)
「よいものを、長く使い続ける」という当たり前のことが、どこかに置き忘れられつつある世の中。現代社会ではより多くの「消費」者を見つけ刺激するのに長けることに、様々な手法や価値が見出されてきた。
 本展の主催者である(財)クラフト・センター・ジャパンが、全国から優れたクラフト作品を発掘してきて展示し、結び手(バイヤーなど流通を担う人)と使い手に広く紹介しようという、意気に溢れた展示会が開かれた。
 陶磁、漆、木・竹、染織、鉄、ガラスなどを素材とした約50の個人作家や団体らが出品しており、思わず手にとってみたくなるような良心的な、かつ機能的な作りのものも少なくなく好感が持てた。とはいえ、「クラフト」という概念や呼称が消失しかかっている現実のなかで、作品を見ながら、その独自性を主張・普及しつつ、位置と範囲を確保するという難事にも直面しているように思えた。当然、作り手にも流通を担当する側にも、情熱を持っているがために危機感や問題意識を抱える人もあって、意見を交換し合う「語る会」も同会場で企画され、意義深かった。
 優れたものの持つ普遍性と道具としての丈夫さや機能性、合理的な価格付けなどが、比類のないクラフト作品の特異性となるように感じられた展覧だった。
左●東京・品川で漆器を制作する田中勝重氏の作品。右●クラフトの現状と将来を「語る会」が、展示会場の一隅で開かれ意見交換が行われた。
八木一夫+山田光によってはじめられた門工房。超ロングセラーの急須も出品されていた。
出品者の3割ほどが、木・竹を素材とした作での出品。
洋風な部屋でも抵抗なく使える水野博司氏の急須。
本展の主会場は元・小学校の体育館、現・台東デザイナーズビレッジのスペースが充てられた。
  • 2008年11月13日~2008年11月26日
  • 礒﨑真理子展
  • ギャラリーTAO (東京都渋谷区神宮前 TEL.03-3403-3021)

 ぽわりとした独特な雰囲気の陶の造形に、真っ赤な彩色が施された礒﨑真理子氏の鮮烈な、興味深い展覧会を見た。現在の活動の中心はイタリア・ミラノにあり、同地でも東京展と同じ傾向の作品による個展が併行して開催されていて、精力的だ。
 近年、大理石やファイバーグラスなど、素材を陶に限定しない、とくに屋外展示向けの大作作りにも仕事の範囲を拡げている。本展の素地に使用したのは、信楽土。1000度から1050度ほどの温度で焼成した後に、真っ赤なアクリル絵具にメディウムと砂を混ぜて彩色し、表面の質感が施されている。テラコッタ・ペイントとでもいう手法による制作だ。これらの作はもちろん陶の造形には違いないが、前回展(2005年 同会場)の作とは異なり、化粧土で装飾、焼成しなかったことに、作者の個性と成長の跡があるように感じた。結局、「私は形に関心があり、形を作りたいのだと思う」のを、冷静に、素直に推し進めた結果としての選択だったろうし、環境の変化も手伝っているだろう。これらのユニークな形と装飾が、今後、どういう方向に進むかは作者自身にも見通せないような気がする。それを今は、楽しみとして受け取りたいと思う。

左●鮮烈な印象の蓮の花床のようなオブジェ。発表価格は750,000円 右●なんとも不思議な形には、愛らしさも感じる。80,000円


ギャラリー内には作品が発する様々なエナジーが渦巻くようだった。
ピーマンという人が多いらしいが、どう見てもらっても構わないと作者。
音から連想したという、リボンを折り曲げたような形。
本展の出品作の制作はほとんど日本で行われた。作者・礒﨑真理子氏。
  • 2008年11月 7日~2008年11月12日
  • 渡辺愛子 作陶展
  • 穴窯陶廊 炎色野 (東京都渋谷区渋谷 TEL.03-5485-8922)
 三重県・伊賀で穴窯を焼く本格派の個展を見た......、という凡庸なフレーズは、あちこちで耳にする機会も多く、取り立てて関心を持つほどでもないと思われるかも知れない。だがその作者が、若い女性だといったらどうだろう。
 作者は美大時代絵画を専攻し現代美術に傾倒していたが、そのうち、土を使ってなにかを作ってみたくなったらしい。そこにもともとの古いものを好む嗜好が重なって、滋賀県・信楽で穴窯焼成を学ぶことを決意させ、その魅力に一気にハマっていったという。独立の地は伊賀に定め、すでに3基の穴窯を自らの手で築いている。
 本展の出品作は、茶碗、水指などの茶陶から、壺、花入、蹲、また酒器や食器類など、穴窯焼成だからこその独特な美しい装飾もさることながら、どれも細部の仕上げも手を抜かず作られていて、好感が持てる作品群だ。すでに一部の熱心なファンが後押しをしはじめているようで、これから造形がどのように個性的に開化するか、大きな期待をもって見守りたい本格派焼締め女性作家といえそうだ。
左◆花入や鬼桶など、野山の花を投げ入れてみたくなる力強い作品。右◆会場の炎色野(ひいろの)での展観は初窯展(2001年)以来8回目という。右は作者。
ビードロの美しい伊賀、緋色の信楽。少し小振りで多彩な徳利たち。
焼き味と形を愛でたい焼締めぐい呑はコレクションの定番。(8,920円)
小品でも魅力ある箸置(1,050円)はお買い得。
最近手掛けているという粉引(左)は窯場に井戸を掘った際の赤土が出発点だそう。中央は「鬼桶」(52,500円)

 初個展から数年にして、敏感なファンの心をつかんだ大村剛さん。「ポリリズム」と題された新作展を見た。ポリリズムとは、"音楽用語で、異なるリズムを同時に演奏することで、さらに別次元のリズムが生まれること"とDMにある。大村さんは最近この言葉を心に刻んで制作しているそうで、会場には新しさの気配もした。作品は食器、茶器、花器、陶板、オブジェなど多彩だが、大きくいうと3傾向にわかれるようだ。まず、従来からの、黒を基調に銀彩やシックな赤・緑で色付けされたもの。薄手で焼締まった質感は金属を思わせるが、どこかやわらかい。形は、ストンとした円筒形や平面とかのシンプルなボディに、ちょっこっと羽のような突起物が付いていたりするのが特徴だ。これらの色や形は一見無機的なようで、心に響く余韻を残す。また最近手掛けているという楽焼にも注目。これまで大村さんの作品は、器の形はしていても、食器として使うよりむしろ近くに置いて眺めていたい、という感じだったと思う。それがこの楽焼作品は「あぁお茶を入れて飲んでみたい」とすぐに思ったのだ。さらに半磁器の器は、白を基調に装飾性を薄め、形もより大らかに見える。

 もしかしたら、少しずつなにかが変わりはじめているのかもしれない。工房を故郷・九州に移し静かな制作環境を得た作り手の、次も見逃せない。(K)

左●エントランスには「ポリリズム」をかなでるように傾向の違う器たちが並んでいた。右●クリーム色にグレーがきれいな楽焼作品(4,200円)。奥には不思議な魅力のミニチュア・オブジェ(3,150円)

三角帽子の茶入や急須たち。来年台湾で開かれる展覧会に向け、茶器に力を入れているとか。
ギャラリーcomoの会場風景。陶板や小さなオブジェも見逃せない。
定番のカップ類が並んでいた。ペン立てや花入として、飲み物を入れないのもいい。
  かつて主に李朝時代の朝鮮で焼かれ、日本に伝えられて茶人たちを虜にしてきた茶碗が高麗茶碗だ。佐賀県・唐津を本拠地として活躍してきた田中佐次郎氏は、5年ほど前、韓国・蔚山(ウルサン)市に本格的な登窯を築いた。本展では、ここ1年ほどの間、その工房での11回の窯から焼き出された23碗の選りすぐられたいわば現代の高麗茶碗と、30点余のぐい呑の秀作が発表された。粉引、刷毛目、伊羅保などの出品作に混じり、なかに「黒刷毛目」という聞き慣れない呼称があったので聞くと、刷毛目が高温で焼成されてできた一種の窯変茶碗らしい。なかでもことさら美しく感じたのは、粉引が還元焼成され、薄青く発色した「靑霄」と名付けられた茶碗だ。「霄」の字のごとく、はるかな空の果てを想像させるに充分な佳品だ。作者は「茶碗は口作りに腐心を重ねて作っている」というが、微妙にバランスのとれた器全体の造形美や、巧者風な高台の雰囲気など、口作りばかりでなく、どこもかしこもこの人独自の深い美意識が浸透して形を成した茶碗ばかりだった。今展の発表価格は、茶碗は60万円弱から100万円までの間で、ファンの心をしっかりと揺すぶった結果、ほとんどが売約済みになっているのもさすがだと思った。
左●手にとってじっくりと鑑賞する愛陶家も多く見られた。右●いつも和服姿で個展会場に現れる作者。
「粉吹茶碗」H9.3 W16.1㎝
「黒高麗茶碗」H8.7 W14.4㎝
「靑霄茶碗」H10.2 W16.7㎝
「波舵茶碗」H7.9 W18.0㎝
  • 2008年10月 1日~2008年10月 7日
  • 前田正博 色絵磁器展
  • 中村好古堂ギャラリー (東京都渋谷区南平台町 TEL.03-3461-7140)
 会場に一歩入るなり、漆芸の展覧会に迷い込んだかのような錯覚に襲われた......。これらの作は、もちろん漆でなくやきものであり、しかも色絵磁器というからビックリだ。だから前田正博氏の展覧会名には、わざわざ「色絵磁器展」と付されることが多い。
 色絵といってもこの作者の場合、ごく限られた数色の色絵具を巧みに使って、本展に見られるようなパターン模様や洗練された花鳥を描いて、特徴的な装飾としている。今展ではとくに、茶碗、香炉、鉢、花入などが黒と赤をテーマに選んで制作されていた。模様のベースは「市松」という。面を強調した造形が、市松の色絵模様とほどよく響き合って感じられる。それにしても、これらの作品が持っている都会的な洗練は一体なんだろう? 前田正博氏の作を見ていて、いつも思う大いなるフシギだ。
左●色絵磁器の大鉢。右●2009年1月には東京・新宿の柿伝ギャラリーにて個展予定。
静かで落ち着いた雰囲気の展示会場。
「一輪挿し」の首に、磁器の素地がちらっと見える。
「色絵水指」の発表価格は367,500円。
会場へのアプローチにも作品が展示されていた。
 展示されている作品の端々には、キラキラと輝いて見えるものがある。なんだろう? ネール・アートなどに使われるジルコニアを使ったのだという。そう聞いていて、しかつめらしく異種素材の利用だとか、焼いていないなどという意見もあるだろうが、工芸品として考えれば、こんなデコレーションだってあり、と作者は考えたらしい。それは余裕から生まれた、ちょっとした児戯の一種と捉えられないこともない。それよりむしろ、壁に取り付けられた三味線のような、あるいはバンジョー形をした、鋳込み成形による磁器のオブジェには、まったくの独自性があって興味深い。未知の惑星の地中から掘り出されたもののような、風変わりな気配を濃厚に漂わす。ここには当然ながら、作者のあらゆる興味とこれまでの視覚的記憶の凝縮が窺え、それらがとてもスマートに造形化されていると感じた。壁面に掛けるタイプのオブジェを長く作り続けてきた森野彰人氏ならではの仕事だと、納得させられる内容の展観だった。
左●会場のあちこちが星の瞬きのようにキラキラと輝いていた。右●バンジョーの形をした磁器のオブジェ。壁面のオブジェは30万円台の発表価格。
小品の筥なら44,100円、青白磁の酒杯は15,750円だった。
穴の開いた器は、若手陶芸家の安易な器作りに対するアンチテーゼでもある。
磁器の蓋ものにもジルコニアが輝いていた。
母校・京都芸大では後進の指導にもあたる作者・森野彰人氏。
  • 2008年10月 1日~2008年10月 6日
  • 小川博久 作陶展
  • ギャラリーおかりや (東京都中央区銀座4-3-5 TEL.03-3535-5321)

 「やきもの屋として、使えるものを作り続けること」が、この作者の底流をなすシンプルにして揺るがない屈強な心情だ。だから表現とか創作という上っ面を撫でただけの言葉にも躍らされず、しかし時代に合致した使いよい器をひたすら思い、作り続けてきた。たとえば、本展でもとくに人気を集めている織部は、学生時代から窯跡を訪ね、桃山時代の陶片を見て歩いてきた。そうして多くの情報を自らで得た結果が、情緒にのみもたれかかった茶陶などの仕事に向かわせず、いわば潔い、かつ使って心地よい現代の織部の器を作る方向へと進ませたという。つまりこれらの仕事も、多くの桃山織部を見たうえでの作者なりの解釈だという点に留意したい。形・装飾、さらに使い勝手のよさを、時代を意識しながら、すっきりと迷いなくまとめられたのが、小川博久氏の作るやきものの特徴だといえる。
左●「伊賀織部方円皿」。発表価格は315,000円。 右●織部作品を目当てに会場を訪れる人も多かった。

こんな重箱を見ていると、ご馳走を一杯詰めて仲間と宴会がしたくなる。
「織部釉丸小箱」の価格は10,500円。
どんな料理でも受け入れそうな織部皿。
作者の小川博久氏(左)。

夕暮れの東京・神楽坂。路地の暗がりに灯りがもれ、光に集まるみたいにポツポツと人が吸い込まれていく。そこが「うつわの手帖CAFE」だとすぐにわかった。カフェといってもそれは展示会で、今年の春に出版された日野明子さんの著書「うつわの手帖【1】お茶」(ラトルズ刊)の内容を立体的にしたものだ。日野さんはクラフト関係の問屋業と展覧会の企画などで活躍中の旬な人。ご本人が店主をつとめるなか、本に登場したほとんどの作り手たちの器類が並んだのだから、ファンにはたまらなかったと思う。奥のスペースでは「日本茶 茜や」による出張カフェも営業。立ち寄った人たちは、ひと通り見て、展示中の器で緑茶とお菓子を楽しんだあと、また展示台に戻って気に入ったものを見つける。賑わいのなか、いつもの展覧会とは違う、どこかリラックスした風景が展開していた。
並んでいたのは、加藤財、藤平寧、工藤和彦、岸野寛、坂野友紀、山田瑞子の皆さんなど、作家ものの急須や湯呑み、土瓶、湯呑み、カップ、茶さじ......。著書のなかで日野さん愛用ということで、一際目を引いていた喜多村光史さんのポットには希望者が続出。初日に売り切れてしまったそうだ。

とはいえ、そうした人気・実力作家の作品に交じって、工房ものの製品が静かに置かれている。作り手の素顔と、「もの」の実力をよく知る日野さんらしいポリシーと潔さが感じられて、清々しかった。著者のツボにはまった解説付きだったのも、今回、"買い手冥利"につきた。
左●近ごろあまりお目にかかれない小笠原陸兆さんの鉄瓶も展示。右●会場には若いカップルの姿も目立った。

日替わりのお菓子は「豆腐白玉ずんだ」。「茜や」は日本茶専門の人気CAFE。東京都新宿区神楽坂6-22-201 (月・火・日・祝は休み)
工藤和彦さんの急須。本書によればこの独特の表情は北海道・旭川の土によるもの。
メレンゲのような白い釉が魅力の土瓶は岸野寛さんの作。12,600円。
会場となった神楽坂フラスコ前の看板。「うつわの手帖」は続編も出版予定だ!
陶とガラスの、ともに造形作品を作る作者の2人展が開かれ、注目を浴びている。陶の安藤郁子氏とガラスの佐々木雅浩氏は、金沢市の運営する金沢卯辰山工芸工房で研修を受けたことに接点があり、今回の発表へつながった。深海にひそむ生物のように細長くくねる佐々木氏の主作品は、まずこれがガラスで成立していることに驚かされる。一方の安藤作品は、ボディーから羽やしっぽをはやした独特の形態。発想は夕陽や風や草原など身近な風景からという。一見、脆弱なバランスの叙情的な姿とも思うが、これらの作品からは揺るぎのない強さのようなものを感じて不思議だ。また今回は、各作者なりの理解による「器」も展示された。
左●真っ黒な展示版の上に、「器」を意識した安藤氏の新作が並んでいた。 右●小さなガラスのパーツは繊細かつユーモラス。これらが組み合わされて生まれる有機的な形に驚く。
佐々木氏ならではのガラス「器」といえそう。
「彼方へ」をイメージさせられた安藤作品。
会場には比較的若い鑑賞者の姿も目立った。
作者自身による作品解説も行われた。