展覧会への招待

Exhibition previews & reviews

 これまでの、青白磁のピリリとした緊張感あるオブジェのイメージを持ったまま会場に入ったら、それは見事に裏切られた。およそ80点ほどの、信楽土を穴窯で焼成した叙情的な雰囲気のたっぷり漂うオブジェを中心に、織部釉による作品を織り交ぜた、林秀行氏の新作展が開かれた。
 ロクロ挽きした後、押したり叩いたり、膨らませたりしながら形作っていったという。いずれもサイズは10センチそこそこで、大きな作でも長辺は15センチほど。信楽は明るく緋色が出て、カラッと焼き上がっている。一方の織部釉の作品は約10点ほどが出品され、信楽の作に較べたらやや大きな、面を強調した形だ。釉の濃淡が表情に豊かなニュアンスを生んで興味深い。
 言わずもがな永く走泥社にあり、脇をきっちりと固められる堅実な役の同人だった。また陶芸家個人としてはこれまで、すでに申し分のないキャリアを積み上げてきている。
「(70歳を越えて)こういうものもいいかな、と思えるようになってきてね」と作者は笑う。ひょっとしたら、日本的な情感をまとった陶のオブジェ制作の継承と発展の可能性は、しばらくはこの人の手中に握られているのかも知れない、と感じさせるほどの内容だった。
上左●「しっぽの誘惑」「土筆のくしゃみ」 「小犬のえくぼ」......、各々に愉快な作品名が付せられた。上右●初の試みとなった今回の仕事を通し、新たな発見があったという。
出品作は滋賀県立陶芸の森・創作研修館で制作された。
信楽作品の発表価格は94,500円と73,500円のどちらか。
  • 2009年1月13日~2009年1月19日
  • 5代 伊藤赤水 作陶展
  • 日本橋三越 (東京都中央区日本橋室町 TEL.03-3241-3311)
 人間国宝に認定されて5年を経た、伊藤赤水氏の新作展が開かれ盛況だった。会場には、果敢に新しい仕事に挑んだ近年の成果が一堂に展示されていた。
 江戸時代後期から続く、代々の窯のある新潟県・佐渡の土のみを素材とし、当代は無名異窯変や練上花紋などの独創的な仕事で、高い評価を受けている。本展ではそれらの作域をさらに広げて精度を上げる一方で、練上魚紋や同鳥紋など、これまでに見られなかった新手の文様を取り入れた作も展示された。作者は「新しいこれらの紋様は、まだほんの入口だ」というが、とくに簡素にデザイン化された魚紋は洗練されており、多くの関心を集めていた。
 また練上から離れて、「佐渡ケ島」という名が付された土器のような雰囲気を持つ作が出品されており、驚かされた。金平糖ほどの石粒につなぎとなる土を混ぜて、手捻りと板作りによって成形したものという。ただでさえ扱いにくいといわれる佐渡の土だから、成形作業は困難を極めたようだ。佐渡の大地そのものをイメージし、それをやきもので表現することを意識した作とも思えた。
 人間国宝としての社会的な重責を担いつつ、個人作家としては老成しながらも無名異の可能性を探り、こうした新たな作に挑み続けようとする作者の姿勢に好感が持てた。大作から実用的な小品まで、およそ70点ほどの出品だった。
上左●代表作のひとつといえる「無名異練上花紋角皿」。発表価格は3,150,000円 上右●1月17日(土)14時からはギャラリートークも予定されている。
「無名異練上鳥紋皿」の鳥は、佐渡の朱鷺と見ても構わないとか。象徴としての鳥を模様化したという。
新たな試みとして発表された「扁壺 佐渡ケ島」(840,000円)は、荒々しい陶肌を見せる。
「無名異練上魚紋皿」(399,000円)の魚紋は簡素、かつ洗練されたデザインだ。
広々した会場に新作が整然と並んでいた。
 会場の展示室の床には、黒く塗られた板が敷き詰められ、作者によって「夜」が演出されていた。そこに作品がポツリポツリと置かれ、それらをつなぎ合わせて全体として眺めると、確かに、夜の草原でささやかれる話がひとつの小さな物語となってつながっていくようにも見える。
 しかしそれら一つひとつは、決して能弁ではなくむしろ木訥な陶による小話であり、また微風にも震えるような感受性があればこその形だと思わせる作品だ。
 手捻りで成形されたこの土の造形は、板のように薄い家、羽の生えた階段、あるいは、天高く伸びた建物や器の異形など。一見するとはかな気な姿の、夢やお伽噺のイメージの断片とも思えるオブジェは、だが、どれも内側から染み出て来たように自然に、土の持つ強靱さを伴っている。もちろん作者の意志によって、素材から引き出されて表現されたものだ。
 その姿のはかない抒情と、素材が持つ強さとの隔たりのアンバランスさに、大きな魅力があるような気がする。
 安藤氏の作る形は、確かな技術に裏打ちされて出来上がっていて、しかもこれらの作とは、対話できる楽しみがある、というギャラリー主の言葉に、素直に共感できた展覧会だった。
上左●「夜の野原・点在する光」の物語がインスタレーションされたギャラリーの一室。 上右●土の素材感を残しつつも軽やかなイメージの形象に仕上げるのはこの作者の特徴のひとつだ。
「無題」W23.8㎝ 発表価格は7,000円
現在の作者の代表的な作品といえる。「無題」60,000円
「無題」W26.3㎝ 28,000円 作品価格が廉価に抑えられているのも魅力だ。
器状の形態の作やいわゆるオブジェなど、およそ30点ほどの新作が出品された。
  • 2008年12月13日~2008年12月21日
  • 小山義則 展
  • 宙 (東京都目黒区碑文谷 TEL.03-3791-4334)

 すべて薪窯で焼かれた器の展覧会を見た。
 南蛮焼締め、粉引などに定評のある笠間の陶芸家・小山義則氏。会場の宙では4度目となる今展は、前回(2005年)も注目を引いていた白瓷を中心に、お得意の焼締め、粉引、鉄釉などの、皿鉢類、花器、茶器、土鍋、すり鉢など、多彩な器がズラリと並んだ。価格もとても良心的なので、この時代にすべて薪で......と驚いて聞くと、「作る方が勝手に焼いてるだけですから」と笑顔で頓着しない。とにかく焼締めがやりたくてこの道に入り伊賀・丸柱で修業したという作者にとって、薪で器を焼くのはごく自然なことのようだ。
 「火前のものは少し焼き過ぎました」という白瓷は、前回と焼き上がりが違って少し黄がかったり窯変が出ているものもある。「本来は白磁らしく白い方がいいでしょうが器なので楽しんでもらえれば」と控えめだが、それらはとても新鮮に見えた。たとえば輪花鉢は、朴の花のよう。炎にあおられて縁に窯変と動きの出た様子は、散りゆく風情を思わせた。何も盛らずそのまま飾っても存在感を放つだろう。
 やきものらしい率直さと作り手ならではのセンス、この両方が表れた作で満たされた会場。欲しい器はきっとここで見つかる、と自然に感じさせてくれた。
上左●「輪花鉢」4,200円。白瓷の透明感と窯変が不思議な魅力。上右●搬入されたのは総数500点。ダンボールにまとめ買いをするファンの姿も多々見られビックリした。

白瓷の「しょう油差し」は小品でもピカリ。
ちょっとした装飾や造形力に実力が見える。左は「手付き納豆鉢」各3,150円
思わず微笑んだ魚形の白瓷皿。食卓が楽しくなりそう。
作者。その奥に見えるのは蒸し鍋、炊飯鍋など、好きで作り続けているという土鍋の数々。
  • 2008年12月 9日~2008年12月15日
  • 木村芳郎 陶展 胎動
  • 日本橋三越 (東京都中央区日本橋室町 TEL.03-3241-3311)

 碧釉と名付けられた、美しいブルーの釉を使った作でよく知られている木村芳郎氏が、新作個展では一転、陶の阿吽像を作って発表し、新境地を拓いた。幼少期に鎮守の社で見た一対の古い守護獣が、長く心の奥に引っかかっており、それが今回の形に結びついたらしい。
 制作方法は、スケッチやエスキースなどは作らず、イメージだけを頼りに、いきなり土を積み上げて作っていくのだという。そういう点から、これまでの皿や鉢とは違った造形力やバランス感覚が求められる制作だと思われるが、阿吽像として破綻なくまとめられており、作者の仕事の領域の広さを、さらには感覚の鋭敏さを示して知らせる展覧ともなっている。
 会場内の作品を仔細に見ると、不思議なことだが、巨大なサイズのものよりも、むしろ中・小サイズの作品に、陶の塊だけが発することのできる、特有な粘るようなエネルギーを強く感じるような気がした。また、観覧者の評判も上々のようであり、多くの作が売約済みとなっている。
 なお、この陶の像の仕事は今後継続する予定はなく、本展での一回限りとなるらしい。
上左●作者・木村芳郎氏。重さが1.9トンもある大作は、滋賀県立陶芸の森の創作研修館で制作された。

上右●金彩の施された作の素地は磁器土だ。

観覧者はそれぞれの思いを作品に重ねて鑑賞していくようだ。
作品はどれも表情が微妙に異なっていて楽しめる。
「阿吽」像。釉薬は織部釉や金彩など5、6種を使い分けている。
こちらは重量が700キロある「阿」像。作者は「これが焼けて自信になった」という。
  • 2008年12月 4日~2008年12月10日
  • 辻村唯 作陶展
  • 現代工芸 遊 (東京都千代田区丸の内 TEL.03-3213-6081)
 須恵器を思わせる灰白色の素地に、淡く美しい青緑色の自然釉が、地図上に記される河川のように流れた作品を見た。
 素地に用いる土は、伊賀土を中心にいく種類かの土をブレンドして作者自らが作る。焼成は自作の半地下式の穴窯だ。といっても、重油を燃料にしたバーナーで炙り焼き、土が焼き締まった頃合いを見て、コナラなどの灰を投入する。その後に薪を放り込み、窯を密閉し還元状態にして燻し焼くという。このいわば須恵器風な独自の燻し焼きによって、素地土が灰白色に仕上がるのだという。思うような焼成結果が得られれば、「楽に焼きたい」と合理的に割り切っている割には、なかなか面倒で手の込んだ焼成方法を選択している。
 しかしその甲斐あってか、会場に並んだ大壺、花入、水指、瓶子、皿、酒器などは、どれも白く焼き締まった器胎に、霜が降りたように輝く地肌に、自然釉が流れ落ちる印象深い作だ。また、高温焼成による土のヘタリ止めの跡が装飾ともなり、作品にアクセントを添えている。
 陶芸家としての前途を予感させるような、辻村唯氏の新作展だった。
左●小品ながら存在感ある「自然釉花入」 右●父・辻村史朗氏に師事し、2002年に独立。2009年6月、名古屋・丸栄にて個展予定。
会場には「自然釉大壺」(発表価格367,500円)、「自然釉茶碗」(52,500円)など、大小取り混ぜ100点ほどの新作が並んだ。
徳利としても楽しめそうな「瓶子」(右)。
個展会場入口では「筒花入」が観覧者をお出迎え。
「自然釉片口鉢」は料理を選ばない柔軟性がありそうだ。
  • 2008年12月 5日~2008年12月 9日
  • 漆工 太田修嗣 展
  • しぶや黒田陶苑 (東京都渋谷区渋谷 TEL.03-3499-3225)
 年の瀬が近づき、各工芸ギャラリーでは漆の企画展が多く開かれるようになってきた。そんななか、太田修嗣氏の新作展がはじまり、ファンらで会場は賑わっていた。
 作者の工房は愛媛県の山中にあり、その地の利を活かし木地選びから塗りまで、一貫して自らで行っているという。本展出品作にも欅、楓にはじまり、沢栗、朴、栃、水楢、黄檗など多彩な素材が使われていて、恵まれた制作環境にいることが伝わってくる。実際に手に持ってみると、楓はやや軽くて使い勝手がよさそうに感じられ、水木は重くて硬質だが、丈夫なのだそうだ。それらの樹肌や木目をそのまま見せ、野性味が感じられるように仕上げた作がある一方、たとえば、根来風に漆を塗り重ねたものなども見受けら、どちらも魅力がある。塗りは他にも、曙塗、溜塗、拭漆などと作者特有の様々な手法が試されて、それぞれの表情も異なっていて楽しめる。また椀なら20,000円弱、通盆でも30,000円ほどから購入できる発表価格も良心的だと感じられた。
左●曙塗と作者がいう手法による鉢。右●野趣ある素材感が現れた長皿がアクセントに。
蓋付の吸物椀は同会場では初出品という。各33,600円
沢栗を材に使った盆。31,500円
和洋問わず、なんにでも使えそうな椀にも人気がある。
客足が絶えない会場には、およそ60点(組)ほどの作品が展示されている。

 日頃から、互いを尊重し干渉し合わずに作り、活動している夫婦陶芸家による2人展が開かれ、盛況だった。
 会場には、ともに半磁器土による、またガラスを使った明るく、軽やかな気分にさせられる器ばかりが展示されていた。なぜ、そんな印象を持つのだろうかと、その意味を探しながら一巡すると、日本の伝統的なやきものを基点にしたような形や模様がないからだと見当がつく。どれも自由な発想に基づいた個性的な形で、しかもポップな装飾が施された器ばかりだ。
 特徴ある象形文字にも似た絵付や、弾むような水玉模様がつけられた鉢や花入は、使うことを思っただけで気分が華やぐような前川氏の作品だ。一方、レギーナ氏の作は実用を伴わない造形作品のようでありながら、たとえば、花入として使えるように口が付けられているなど意外性がある。絵付はパステルトーンの抽象絵画調で、すぐにでもリビンクに置いてみたくなるほどに誘惑する。ふたりはともに、やきものを見るよりも絵画などにより強い関心があるという。だが、今の時代を強く呼吸する、これらの個性的な器が生まれる本当の理由は、どこにあるのかはよく分からないままだ。それもこれらの作品の、魅力の一片かも知れないと思う。

左●個性がぶつかるようでいながら、互いに響き合うようにも見えるふたりの作品。右●2009年にはスイスで2人展を開催する予定。

 

自由な遊び心を感じる前川氏の花入。
お茶を飲むのが楽しくなりそうな前川氏の作。
レギーナ氏の花入は微妙なバランスを保っていて面白い。浮くイメージだという。
軽やかな雰囲気の茶道具は、お茶を習っているレギーナ氏の作。
  • 2008年11月25日~2008年11月29日
  • 吉田喜彦 展
  • 壺中居 (東京都中央区日本橋 TEL.03-3273-1051)
 伝統的な美濃陶を焼く実力派・吉田喜彦氏の個展が開かれ、熱心なファンが会場を訪れていた。志野茶碗を中心に、土灰釉茶碗、瀬戸黒茶碗、白化粧茶碗、それに亜米利加茶碗など、いずれも静かで落ち着きのある、いかにもこの作者らしい姿形の茶碗が展示された。
 亜米利加茶碗は、今春渡米し、ポートランドやサンフランシスコの美術館でスライドレクチャーをする合間に、西海岸の原土に市販の土を混ぜて素地とし、当地で薪窯にて焼成したという作だ。どこで、どんな素材を使って作っても、円やかなゆったりとした雰囲気を観る者に伝える茶碗にしてしまうのは、ベテランの実力だと思えた。「茶碗は気持ちよく飲みたいものですから、カサカサしたものや、強く主張したのはあまり......作りたくないですね」という。形を包む空気のようなものを大切にして、意識して作りたいというだけあって、一碗一碗がそれぞれ趣き深く感じられる。なかでも赤志野や練込み志野など、とくに志野茶碗に多くの優品が見受けられ、見応えある展覧だった。
左●丸味を帯びた、ゆったりとした形の志野茶碗にこの作者の特徴が現れている。右●会場にて茶碗制作について話す吉田喜彦氏。
これほど優しい姿の「瀬戸黒茶碗」を焼く作家はあまり多くない。
「赤志野筒茶碗」の筒形が吉田氏の作る茶碗のもうひとつの特徴的な形といえる。発表価格は735,000円。
控えめながら様々な表情が楽しめる「白化粧茶碗」。367,500円
会場にはアメリカ・ポートランドで焼いたという「亜米利加茶碗」を含め、趣の異なる茶碗が並んだ。
  • 2008年11月10日~2008年11月22日
  • 板橋廣美 展
  • たち花 (東京都大田区田園調布 TEL.03-5483-8286)
 土や釉などの素材に固有の性質や、また焼成を経ることによって起こる様々な変質に着想を得て、作品化してきた作者ならではの新作が出品されていた。
 壁面に展示された角型の陶板は、磁土にスポンジを浸して基本形が作られているという。そうして成形されたボディにさらに、焼成の際に作品と窯の棚板とのくっつきを防ぐために使われているアルミナ粉や、長石粉などを掛けて焼かれている。ザラっとした質感や表面がめくれたりしていて、素材の表情がリアルに迫ってくる作品だ。一方、角形のやや小型の陶板はといえば、磁土にキッチンペーパーを浸して焼かれたものだ。磁器土の白さと対局をなす黒い装飾は、銅線や粉末の銅を焼いて得られた色と、焼きの表情というわけだ。
 器としての用途を意識した作も出品されていた。これらも造形的作品と同様に素材独自の性質や必然的な力を引き出しながら、膨らみやカーブ、凹みなどが作られている。それらの自然な形や、釉の溜まりの色などが繊細で美しく、陶という素材に対する鋭く深い眼差しがなければ生まれない作ばかりだと思った。
左●高い足がついた箱膳のような皿は、オブジェとしても美しい。右●キッチンペーパーを利用して成形された陶板(壁面)。左は金属と陶を組み合わせたオブジェ。
上と同作品の釉溜まり。正月の祝い膳に使ってみたくなる。発表価格は84,000円。
人気の板皿(写真は大小2枚)は、縁の膨らみが座布団のようでユニーク。
会場となった「たち花」には、他にはないオリジナルな形の器が並んでいた。
銅線による黒い装飾(陶板)は、並べて見ると光が疾走しているようで迫力がある。