
0064号
2010年08月02日更新
すべて薪窯で焼かれた器の展覧会を見た。
南蛮焼締め、粉引などに定評のある笠間の陶芸家・小山義則氏。会場の宙では4度目となる今展は、前回(2005年)も注目を引いていた白瓷を中心に、お得意の焼締め、粉引、鉄釉などの、皿鉢類、花器、茶器、土鍋、すり鉢など、多彩な器がズラリと並んだ。価格もとても良心的なので、この時代にすべて薪で......と驚いて聞くと、「作る方が勝手に焼いてるだけですから」と笑顔で頓着しない。とにかく焼締めがやりたくてこの道に入り伊賀・丸柱で修業したという作者にとって、薪で器を焼くのはごく自然なことのようだ。
「火前のものは少し焼き過ぎました」という白瓷は、前回と焼き上がりが違って少し黄がかったり窯変が出ているものもある。「本来は白磁らしく白い方がいいでしょうが器なので楽しんでもらえれば」と控えめだが、それらはとても新鮮に見えた。たとえば輪花鉢は、朴の花のよう。炎にあおられて縁に窯変と動きの出た様子は、散りゆく風情を思わせた。何も盛らずそのまま飾っても存在感を放つだろう。
やきものらしい率直さと作り手ならではのセンス、この両方が表れた作で満たされた会場。欲しい器はきっとここで見つかる、と自然に感じさせてくれた。
上左●「輪花鉢」4,200円。白瓷の透明感と窯変が不思議な魅力。上右●搬入されたのは総数500点。ダンボールにまとめ買いをするファンの姿も多々見られビックリした。
碧釉と名付けられた、美しいブルーの釉を使った作でよく知られている木村芳郎氏が、新作個展では一転、陶の阿吽像を作って発表し、新境地を拓いた。幼少期に鎮守の社で見た一対の古い守護獣が、長く心の奥に引っかかっており、それが今回の形に結びついたらしい。
制作方法は、スケッチやエスキースなどは作らず、イメージだけを頼りに、いきなり土を積み上げて作っていくのだという。そういう点から、これまでの皿や鉢とは違った造形力やバランス感覚が求められる制作だと思われるが、阿吽像として破綻なくまとめられており、作者の仕事の領域の広さを、さらには感覚の鋭敏さを示して知らせる展覧ともなっている。
会場内の作品を仔細に見ると、不思議なことだが、巨大なサイズのものよりも、むしろ中・小サイズの作品に、陶の塊だけが発することのできる、特有な粘るようなエネルギーを強く感じるような気がした。また、観覧者の評判も上々のようであり、多くの作が売約済みとなっている。
なお、この陶の像の仕事は今後継続する予定はなく、本展での一回限りとなるらしい。
上左●作者・木村芳郎氏。重さが1.9トンもある大作は、滋賀県立陶芸の森の創作研修館で制作された。
上右●金彩の施された作の素地は磁器土だ。
須恵器を思わせる灰白色の素地に、淡く美しい青緑色の自然釉が、地図上に記される河川のように流れた作品を見た。
年の瀬が近づき、各工芸ギャラリーでは漆の企画展が多く開かれるようになってきた。そんななか、太田修嗣氏の新作展がはじまり、ファンらで会場は賑わっていた。
日頃から、互いを尊重し干渉し合わずに作り、活動している夫婦陶芸家による2人展が開かれ、盛況だった。
会場には、ともに半磁器土による、またガラスを使った明るく、軽やかな気分にさせられる器ばかりが展示されていた。なぜ、そんな印象を持つのだろうかと、その意味を探しながら一巡すると、日本の伝統的なやきものを基点にしたような形や模様がないからだと見当がつく。どれも自由な発想に基づいた個性的な形で、しかもポップな装飾が施された器ばかりだ。
特徴ある象形文字にも似た絵付や、弾むような水玉模様がつけられた鉢や花入は、使うことを思っただけで気分が華やぐような前川氏の作品だ。一方、レギーナ氏の作は実用を伴わない造形作品のようでありながら、たとえば、花入として使えるように口が付けられているなど意外性がある。絵付はパステルトーンの抽象絵画調で、すぐにでもリビンクに置いてみたくなるほどに誘惑する。ふたりはともに、やきものを見るよりも絵画などにより強い関心があるという。だが、今の時代を強く呼吸する、これらの個性的な器が生まれる本当の理由は、どこにあるのかはよく分からないままだ。それもこれらの作品の、魅力の一片かも知れないと思う。
左●個性がぶつかるようでいながら、互いに響き合うようにも見えるふたりの作品。右●2009年にはスイスで2人展を開催する予定。
伝統的な美濃陶を焼く実力派・吉田喜彦氏の個展が開かれ、熱心なファンが会場を訪れていた。志野茶碗を中心に、土灰釉茶碗、瀬戸黒茶碗、白化粧茶碗、それに亜米利加茶碗など、いずれも静かで落ち着きのある、いかにもこの作者らしい姿形の茶碗が展示された。
土や釉などの素材に固有の性質や、また焼成を経ることによって起こる様々な変質に着想を得て、作品化してきた作者ならではの新作が出品されていた。
「よいものを、長く使い続ける」という当たり前のことが、どこかに置き忘れられつつある世の中。現代社会ではより多くの「消費」者を見つけ刺激するのに長けることに、様々な手法や価値が見出されてきた。
ぽわりとした独特な雰囲気の陶の造形に、真っ赤な彩色が施された礒﨑真理子氏の鮮烈な、興味深い展覧会を見た。現在の活動の中心はイタリア・ミラノにあり、同地でも東京展と同じ傾向の作品による個展が併行して開催されていて、精力的だ。
近年、大理石やファイバーグラスなど、素材を陶に限定しない、とくに屋外展示向けの大作作りにも仕事の範囲を拡げている。本展の素地に使用したのは、信楽土。1000度から1050度ほどの温度で焼成した後に、真っ赤なアクリル絵具にメディウムと砂を混ぜて彩色し、表面の質感が施されている。テラコッタ・ペイントとでもいう手法による制作だ。これらの作はもちろん陶の造形には違いないが、前回展(2005年 同会場)の作とは異なり、化粧土で装飾、焼成しなかったことに、作者の個性と成長の跡があるように感じた。結局、「私は形に関心があり、形を作りたいのだと思う」のを、冷静に、素直に推し進めた結果としての選択だったろうし、環境の変化も手伝っているだろう。これらのユニークな形と装飾が、今後、どういう方向に進むかは作者自身にも見通せないような気がする。それを今は、楽しみとして受け取りたいと思う。
左●鮮烈な印象の蓮の花床のようなオブジェ。発表価格は750,000円 右●なんとも不思議な形には、愛らしさも感じる。80,000円