展覧会への招待

Exhibition previews & reviews

 京都から滋賀県大津市に陶房を移して、10余年が過ぎたという山田晶氏の新作展を見た。食器を中心に、花器、陶板などを加えた80点ほどが展示されている。
 基本的には実用的な器なのだから、ことさらエキセントリックな形をした作は見当たらない。むしろ器作品全体としては標準的で、几帳面な造形だといえそうだ。一転、装飾としては、近年精力的に取り組んでいる「猩々緋(しょうじょうひ)」「白金彩」などの独自手法をさらに展開させた作が見られ、この作品ならではの妖婉な雰囲気を醸し出している。
 誤解を恐れずにいえば、まるで樹脂の素地に合成漆でも塗ったかのように思えるこれらの作は、花器など大作の一部をのぞき胎土には磁器土が使われている。ロクロ成形の後、赤色の顔料を塗って素焼してから、磨くのだという。それから再び赤や黒の顔料を塗り、掻落しによる装飾を施すことによって、作品の表情に違いが生じることになる。そして本焼し、さらに上絵で金彩を重ねてやっと「猩々緋」の特異な色彩とテクスチャーを得る。作者本人は淡々としているが、ここまでくるとはっきりいって「執念深いオタク」の仕事とも思う。とはいえ、その工程を経て作者が掌中に納める成果は、決して小さくはない。昨今流行の骨董写しの「シンプル系うつわ」にはない、作り手の揺るぎのない意志と、どこを探しても見つからない独創がそこにあるからだ。
 なお「猩々緋」の作は、見た目の重厚感に比し、どの作も持ってみると意外なほど軽く、また、皿や鉢類に秀作が多くあったことを記録しておきたいと思う。

上左●「猩々」とは、中国の想像上の怪獣で毛が長く朱紅色をしているという。オランウータンの意とも。とくに猩々緋の皿や鉢類に佳品が多く見られた。
上右●「白金彩四方鉢」の表面は下層に塗られた猩々緋が所々透けて見え、装飾効果を高めている。裏面には白金彩は施されず全面が深い猩々色だった。発表価格は47,250円。

親しみやすい人柄の作者だが、作風を見る感じでは意志堅固な面もあるか……と感じたりする。師は父・山田光(1923-2001)。
花器や水指など茶道具類も発表された。後の「猩々緋花器」はシャープな仕上がりだった。発表価格は126,000円。
表面を引っ掻いて装飾が施された「猩々緋茶碗」。47,250円。
一方で、永くクラフト作品を手掛けてきた作者らしく、急須の作りは細部までしっかりと丁寧、安心して使えそう。

 会場となったギャラリーは、2部屋に別れて展示スペースがある。本展のサブタイトルにあるように、一方の「しろのへや」には約100点の無彩色の磁器の器が並べられ、もうひと部屋の「いろのへや」には、化粧土と上絵による作品が展示されていた。どちらの作も、磁器素材に固有の冷たさがほとんどなく、ほわほわと立ち昇る微熱のようなものすら感じられた。武蔵野市に生まれ、現在は愛知県常滑市で制作する浜坂尚子氏の新作展だ。
 「しろ」の出品作は、型による成形が中心ではあるが、とはいえシンメトリーな器形をほとんど採用していない。多少の歪みや手跡などが適度に残るように意識的に処理された、汲み出しのようなカップ、あるいはぐい呑位のサイズのカップ、鉢、小皿類が並べられていた。表面の装飾は雄弁でなく、かつ寡黙でもない程度に個性的なのも、「しろ」の作の特徴となっているようだった。
 他方の「いろ」の作は、主な成形法は型とロクロ。器種としては、皿や鉢などに、種々のカップ類などおよそ120点ほど。彩色は下絵では化粧土を筆を使って色が塗られるように描かれ、後にさらに上絵が施されていく。下絵によって大胆に、即興的に色が加えられ、一転、上絵では可愛らしく精細な絵が丁寧に描かれる。いずれの作も、どこの家の食卓上の、どんな器とも共存できそうな親和力があり、とはいえ、それなりの個性も主張する作だと見える。際立った自己主張はしないが、作者の体温がじわりと伝わるほどにオーガニックなのである。こられの作を見ていて感じるほどよい心地よさは、そんなところから発せられているのでは、と春の風に吹かれながら思った。

上左●型によって成形されたティーポットとカップ。表面の装飾は過不足なく、心地よい暖かみが感じられる磁器だ。
上右●抑えられた優しい色が好んで使われていて、見るとすぐに使ってみたいと思わせる。

誰にでも、すぐに受け入れられそうな作が並ぶ「しろのへや」。この人懐っこさも浜坂作品の特徴のひとつだ。
こんな「ティーポット」をドンと置いておけば、自慢の装飾品になりそう。彩色の作品は小サイズのカップや鉢なら3,000円代から。
このサイズ位の作ならまだ2,000円前後で入手でき、お買い得感がある。実用性と楽しさが併存している作品だ。
作者は武蔵野市生まれ。武蔵野美術大学造形学部工芸工業デザイン学科を卒業し、後、常滑市に移り制作を続けている。
  • 2009年4月18日~2009年6月21日
  • 伊藤公象 1974-2009
  • 茨城県陶芸美術館 (茨城県笠間市笠間 TEL.0296-70-0011)

 伊藤公象氏(1932-)は石川県・九谷の窯元に弟子入りの後、茨城県・笠間に工房を構えた当初は、器のデザイナーとしての仕事を模索していたという。その後はいったん陶芸から離れたが、70年代のはじめからは素材を陶に限定し、土の性質を巧みに作品に取り入れたシリーズを次々と発表、器作りにとどまらない陶の造形や、陶のインスタレーションなどの分野に新たな地平を拓いた作家として知られている。
 生の陶土に力を加えると、どんな形にも変形させることができる可塑性という性質に着眼した「多軟面体」、生土が乾燥の過程で収縮することに注目した「褶曲」、また凍った生の土をそのまま焼成し、氷の結晶を土に移して見せる「起土」などが代表的なシリーズだ。また作品は、建築装飾やパブリックアートとして制作される点においても、実用としての器や室内鑑賞品としての領域に安住せずに制作を続け、それを長く意識し実践してきた作家ともいえる。
 本展は35年間におよぶ作者・伊藤公象氏の創作の全貌を俯瞰することのできる回顧展であり、加えてこのために新作も制作され、インスタレーションされるという。陶芸家としての作者の再評価、あるいは新たな議論が起こる展覧になることなどが期待される注目展といえるだろう。
上左●「土の襞 青い陶結晶」2007年 上右●「アルミナのエロス(白い固形は......)」1984年 東京都現代美術館蔵 撮影:内田芳孝

 

 なお同展の関連行事として以下が予定されている。

■美術講演会(対談):2009年5月10日 伊藤公象×竹内順一(茨城県陶芸美術館館長) 茨城県陶芸美術館
■伊藤公象 ワークショップ(予定):2009年4月26日、5月30日  茨城県陶芸美術館
■本展巡回予定:2009年8月1日~10月4日 東京都現代美術館 TEL.03-5777-8600(ハローダイヤル)

  • 2009年3月 4日~2009年3月16日
  • 吉川千香子 展
  • Azabujuban Gallery (東京都港区麻布十番 TEL.03-5411-3900)
 見ていると気分が明るく弾み、ウキウキするような華やいだ展覧会が開かれている。
 愛知県常滑市で仕事を続ける、吉川千香子氏の新作展だ。陶芸家としてのキャリアは長くなり、もうベテランの域に入る作り手だが、著しいユニークさが作品に現れ、保たれているのは少しも変わりなく健在だ。
 今回の出品作の中心は、プレートと明かり。プレートにはお子さまランチか給食で使われる皿のような仕切があり、しかもその仕切が、色絵と連動して作られているという、いかにも楽し気な作だ。モチーフは、鳥、豚、虎、犬などの動物や、花とか人の顔など多彩だ。どれもこれも見ていると、思わず口元がほころんでいってしまうのは、すなわち吉川陶芸の説得力だろう。なぜ、このようなプレートを作ったかを問うと、「ウチは家族が多く、食器の後片付けも大変だから」ととても明解だ。こんな皿があったなら、きっと食事が楽しくて片付けも簡便だろう、というのが制作の主な動機だ。そうだ、それ以上の理屈はなにもいらないはずだと、共感させられる。
 本展のもうひとつのテーマが、磁器という素材の透光性を利用して作られた照明だ。キャベツやピーマンなど野菜から型を取り、それらを組み合わせ手捻りでひとつにまとめて仕上げられている。もし、こういうものが部屋にあったら、きっと子供たちは喜ぶに違いない、と断言できる。こんな遊び心を形にしてしまえるのが、この人の特徴のひとつだ。
 長くやってきても技術的に成長しないと作者はいうが、これらに象徴される一連の作を発想し、作り続けてきた吉川千香子氏の個性的で独特な作品作りは、これからも変わらずに続くであろうと再確認できた展覧でもあった。
上左●「プレート」発表価格は21,000円(大) 上右●作者本人はもとより、最近では千香子門下生の若い陶芸家らの活躍も目立つようになってきた。子育てはお得意だ。
プレートは80点ほどが発表された。21,000円~15,750円と求めやすい価格帯だ。
朝食やランチには、まさにもってこいのプレートだ。
型と手捻りによる磁器土の照明は、10余点が発表された。
会場には「色絵カップ」(4,725円)、「小さなカップ」(4,200円)などの小品も並んだ。
 喜多村光史氏のポットはとても人気がある。今回の新作は注ぎ口がくねっと一カ所曲がっていて目を引いた。全体の形をシルエットのように見てみると、この「くねっ」がアクセントになっていてきれいだなと思った。しかしこれは形のためばかりではない。ギャラリーの方に聞いてみると、お茶が一気に出ない工夫でもあるそうだ。使い勝手への配慮も作者の美意識のフィルターを通すと、こんな意味ある形になる。このポットを目当てに会場をのぞいたファンもきっと多かっただろう。
 けれど、実はポットより気になったものがある。それは皿だ。とくに平らな丸皿で白一色のもの。これが西欧なら「プレート」ただ1種類ということになるかもしれないが、会場には驚くほど、というか嬉しくなるほど表情の違う皿が並んでいた。その違いは、たとえばフチの幅や立ち上がり具合、平面の丸みの調子、見え隠れするロクロ目や素地の色などに表現され、微妙な感覚をくすぐられた。それに同じ粉引でも白くマットな質感から黄がかったものまである。さらに半磁土に白化粧を施し錫釉を掛けた作品は、喜多村氏の白の世界を広げていた。
 作品にはどこか古き西洋のにおいもする。でも「白くて丸い皿」という枠のなかでこれだけ多彩に楽しませてくれるのだから、やっぱり根っこは日本の「器」だなぁ......なんて思ってしまった。もし1枚だけ選ぶとしたら、きっとワクワクと迷ったと思う。
左●注目のポットは今回白に加え赤、黒が出品されていた。8,400円~15,000円。右●皿やポットのほか、碗、鉢、カップ、花入などが並んだ会場。
白い器の表現力にコレクション欲も湧く。
土瓶形の粉引のポット。口の形がユニーク。
手前の錫釉を掛けたデルフト(オランダのデルフト窯を中心に焼かれた錫釉陶器。不透明な白濁が特徴)風の皿は、独特のやわらさがある。6,300円
会場「日々」のウィンドウに並んだポット。通りすがりに振り返る人も多かった。
 個展会場は、さながら小さな星々が散りばめられて輝く銀河のなかを眺めるようだった......。
 秋谷カヲル氏の新作展には、作者お得意のスプーン類、とくにコーヒーや紅茶用のキャディスプーン、ジャムスプーンを中心に、ケーキサーバーなどカトラリー類、またスプーン用のトレイやレストなど数多く展示されていた。個人ユースのものばかりでなく、サービングするための道具を意識した作域なのが今回印象的だった。
 素材は銀のみ。銀の板を切り、熱を加えず型に当てて槌(つち)で叩いて形作る。花弁やハートを連想させる有機的な造形があるかと思えば、グラフィカルな作もある。その多くは、円とカーブが巧みに活かされた独特の形状をしていて、愛くるしささえ感じてしまう。
 それらを仔細に見ると、どの作にも精緻な彫り模様が施されているのが分かる。作者によるとそのイメージは、日常目にしたものがすべて蓄積・混交されて生まれてきたものという。強いて挙げれば、中世のヨーロッパなどの雰囲気を持った、まさにエキゾチックな意匠であり、もちろん秋谷オリジナルだ。
 これらの作が総じて魅力的なのは、道具として使って楽しむのはもちろんだが、たとえば額装し壁に掛けて鑑賞することも可能で、充分にコレクションの対象になり得るということだろう。
 発表はおよそ年1度ほど。同ギャラリーで出会える。
上左●金属なのにアンティーク・レースのようなサーバー。素朴さと優雅さを合わせ持つ。上右●1点1点額に入れて見てみると、形や模様が際立って新鮮だ。「ジャムスプーン」7,560円
会場では、さまざまな使い方が提案されていた。
左に並んでいるのがティーキャディスプーンの数々。茶葉を缶から取り出すのに使う。
表面の微妙な凹凸に体温を感じ、思わず手に触れてみたくなる。
銀を素材に選んだのは「叩いた感触や音の響きが自分に合っていたから」と語る作者。
  • 2009年2月18日~2009年2月24日
  • 鈴木五郎の四都物語
  • 高島屋東京店 (東京都中央区日本橋 TEL.03-3211-4111)

 鈴木五郎氏の新作が、それぞれ違ったテーマによって制作され、東京・大阪・横浜・名古屋の4都市(各高島屋)において、しかも同時に個展発表されて話題になっている。
 チャールズ・ディケンズの小説「二都物語」は悲恋だったが、本展「四都物語」のストーリーはといえば、東京=黄瀬戸、大阪=志野、横浜=呼継、名古屋=織部の章だ。東京展と横浜展を見た限りでは、作者・鈴木五郎氏に恋ごころを抱くように作品を見つめる、比較的若い世代の熱心な観客が意外に多いようだった。いずれにせよスケールといい内容といい、余人には真似のできない好企画となった。
 かつて大壺、大皿、陶の椅子、大土瓶、何十段も積まれた重筥など、ショーとしての演出とは異なり、伝統技術を極めた果てに出来上がるそれらの作を次々に発表し、世をアッ! といわせてきた。併行して、美濃陶を中心にした茶碗や水指など茶陶も作り続けてきて定評があり、ファンも多い。
 今回はとくに、茶碗を中心にした発表だった。各作はそれぞれが奥深く匂い立つように熟成しているが、所々には作者独特のユーモアや遊びが付加されており、独自性があって興味はつきない。現代作家としての、美濃陶の伝統に対する作者なりの、ひとつの解釈が示されているかのような発表だと思った。
上左●時折、30~40歳代の男性ファンも会場を訪れ、熱心に茶碗を鑑賞していた。 上右●今回のような発表は「そう度々できるようなものじゃない」という作者。


■横浜展=およそ30点の出品。発表価格は呼継茶碗が1,260,000円~840,000円、呼継大壺が3,150,000円だった。

東京展のテーマは黄瀬戸。茶碗をメインにおよそ50点ほどの出品だった。
発表価格は黄瀬戸茶碗が1,260,000円~840,000円、黄瀬戸大鉢が2,625,000円ほど。
土や釉などの素材、造形、絵付、焼成、すべてがバランスよくまとまっている。

 2004年から、春の花のシーズンに合わせて開催されている「花」をテーマにした所蔵作品展が、今年も開かれる。本展ではとくに、同館の陶磁、漆工、染織、ガラスなど約2700点におよぶコレクションのなかより、花の模様や形に焦点をあてて作品が選定されるという。
 全体は「花の意匠と模様」「花の形」「心象としての花」の三つの切り口で構成・展示される。「花の意匠と模様」では、松田権六(1896-1986)の「玉すだれ」のような写実的な模様や、創造的にパターン化された富本憲吉(1886-1963)の「四弁花」など。「花の形」には花弁の形態を作品そのものの造形に取り込んだ増村益城(1910-1996)の「花蓋物」に代表される作、さらに「心象としての花」では、藤田喬平(1921-2004)の「夜桜」など。なんのよりどころもなく作品鑑賞するのとは違い、「花」という誰にとっても親しみ深いテーマに沿っての特集なだけに、アプローチしやすく一層の興味もわいてくるはずだ。もちろん工芸館の所蔵品だけあって、どれも屈指の名作・名品ばかりであり見応えも充分。日本の近代工芸の歴史の概観をたどりつつ、各作家の創意を感じることができるだろう。
 春の花見のシーズンも間近だ。昨今大人気の千鳥が淵の桜はいずれはかなく散ってしまうが、そのすぐ脇に建つ工芸館の展示室では、永遠に作品のなかに咲き続ける花々をじっくりと鑑賞できる。春の必見の展覧会のひとつとなりそうだ。
上左●富本憲吉「色絵金銀彩四弁花染付風景文字模様壺」1957年 上右●増村益城「乾漆花蓋物」1978年 作品は2点とも東京国立近代美術館蔵


■同展のギャラリートーク
3月15日14時~ 唐澤昌宏同館主任研究員/4月19日14時~ 北村仁美同館研究員
■チケットプレゼント
本展の招待券をペアで5組(10名)の読者の皆さまにプレゼントします。

ご希望の方は、お問い合わせフォームからお名前、ご住所と、内容に「花展 チケット希望」と記入し送信下さい。なお、発表は発送にかえさせていただきます。

松田権六「蒔絵玉すだれ文盤」1953年
荒川豊蔵「志野茶碗 銘 氷梅」1970年
鈴田照次「木版摺更紗着物 花文」1979年
藤田喬平「飾筥 夜桜」1996年
作品はいずれも東京国立近代美術館蔵

 兼田昌尚氏は、山口県萩市の伝統ある窯元の8代目だ。つまり萩焼の窯元なのだ。なのにこの人の個展のタイトルには、「萩」や「萩焼」の文字が見あたらない......。
 出品された茶碗、水指、壺などの作品の多くには、美しい発色と質感を持つ白萩釉が掛けられ、また所々には登窯焼成の状況によって様々な窯変が現れ、装飾的な効果を生んでいる。一方成形はといえばロクロ成形に束縛されない、もしくは依存することを避けて、いずれの作も刳貫きという技法によって造形されている。土の塊を叩きつけて表情を探し、次に木の板などで叩きながら面や線などを顕在化させつつ、次第に形を完成に導く。その後、内部を刳貫いて器物として仕上げている。用いられる土は、萩に固有の見島土などだ。
 また会場奥には、萩釉が掛けられていない大作4点が出品されていて、目を惹いた。粉引を用いたという。伝統的に萩では茶碗などを作る際に使われてきた、いわゆる白化粧だ。それをごく薄く施し、土の動き、屈強さや円やかさなど、直截で多彩な表情を引き出すことに成功していた。
 作者は萩の窯元に生まれ、萩の素材を使っていながら「萩焼」のイメージを裏切り、つまり萩焼の範囲を拡大しつつ、創作としての陶の可能性に挑んでいる陶芸家なのだと思える。個展のタイトルに「萩」や「萩焼」がないのは、もちろん作者の自信の現れだとみえた。

上左●作者は江戸時代後期(1817年)に開窯した歴史ある窯元の8代目だが、作品はいつも現代的だ。  上右●ロクロ成形に依らないことで生まれる造形は新鮮で、ハッとさせられることも多い。

茶碗の造形は独特で、とくに割高台の形は忘れられないほど個性的だ。
土の存在感、様々な表情を引き出した大作には、粉引が掛けられていた。
小品など含めておよそ70点ほどが展示された。
  • 2009年2月10日~2009年2月23日
  • 大隈美佳 GARDEN
  • 松屋銀座 (東京都中央区銀座 TEL.03-3567-1211)
 音が聞こえてきそう器に出会った。といっても鈴が入っているわけではない。音の元は磁器に描かれた絵にある。ピッピィ。ガサゴソ。ジャブン。見ていたら、そんな自然界の音が響いてくる気がしたのだ。
 「GARDEN」と題された大隈美佳氏の新作展。並んだ作品は皿、カップ、ボウル、ポットなど、形はどれもすっきりとシンプルで、いかにもスタッキングがよさそうだ。特徴的な絵付は、多色使いのものと黒一色のもの2種類がある。いずれも草花、小鳥、木の実、動物などがモチーフ。たとえれば、カラフルな絵は「光の庭」、一転して黒い方は「闇の庭」、あるいは庭の片隅にありそうな得体の知れない暗がりなんかを想像させられる。不思議だったのは、色調の違うこれらの絵がどちらもウキウキと楽しい気分にさせてくれるところだ......。
 実は作品は、カラフルな方は筆で自由に描かれ、黒い方はマスキングの技法で絵付されている。また、どちらも絵具の代わりに化粧土で磁胎に描かれたものという。つまり、色調の違いを生かすために技法を選び、さらに技法に合った絵柄を展開させていると見える。そこに作り手の繊細な表現力と確かな実力が感じられた。
 近年、子供のための食器も手掛けている大隈氏。無邪気な作風の、「質実な器」を見た思いがした。
上左●植物のほか、ワニ、カエルなども登場する黒のシリーズ。大人も子供も好奇心をくすぐられそう。
上右●会場には食器のほか陶板も展示。まるで絵本の挿し絵を見るように楽しい絵付の数々。
日本クラフト展で優秀賞を受賞した「楽園の器」を展開したシリーズ。隙間なく描かれていても軽やかさが魅力。
「ふたもの」5,250円。切り絵やスタンプのように見える絵。大隈作品の「GARDEN」には、なぜか可愛いワニが度々登場する。
「鳥花pot」15,750円。点々とした線の表情や、水彩画のように淡く濃淡のある絵が特徴。
作者は武蔵美の工芸工業デザイン出身。陶芸家の西川聡氏と工房を設立し、湯河原(神奈川県)で制作を続ける。