展覧会への招待

Exhibition previews & reviews

 普段の生活に使われることを制作の目標に置き、声高には個性を主張しようとしない。そして、食卓の上で他の作者が作ったものとも親和力を持って溶け合いながら、自作が活かされることを願う、そんな若手の器作りたちの活躍が、昨今とても目立つようになってきた気がする。本展の作者・清水なお子さんもそういった作り手のひとりだ。
 とはいっても、会場に並べられた新作を見ていると、やはりこの作者らしさが感じられてくる。技法は染付を主体に、鉄絵、それに瑠璃釉による出品だ。長く仕事の中心に位置づけてきた染付は、大学を卒業後、人気作家・藤塚光男氏の工房に修業に入ったことがきっかけになって作りはじめたという。
 展示された染付作品の特徴のひとつは、絵付の模様にある。伝統的な模様を思い起こさせるほど古風ではなく、また絵画的表現に重きが置かれて描かれたものでもなしに、ほどよいのだ。それに多くもなし寂しくもなく筆が入れられていて、優しげな雰囲気を漂わす絵付が共感を呼ぶ。そしてもうひとつの魅力は、釉のほんのところどころに針で空けたような穴と、小さなほくろのような鉄分がぽつりぽつりと認められることだろう。こういうちょっとした作者の装飾に対する美意識によって、これらの作に一層の親しみが感じられる。見る側は控えめで、ふんわりとした端正さが漂う磁器の器から、手招きされるような気にもなってしまう。それに価格はまだとても手頃で、その点での魅力も少なからずある。
 芸術的な表現としての制作を自己のより所とせず、また、料亭など業務用として使われる器のカッチリとした雰囲気とも異なる、いわば作者個人の感覚を重視した現代日本風な器作りは、ひょっとしたら陶芸の将来に新しい活眼を開く可能性があるかもしれない、と思わせる展覧だった。

上左●絵付は多様なイメージをインプットして描く自己流という。爽やかな個性がふわりと感じられる。
上右●1974年大阪生まれ。京都精華大学美術学部で陶芸専攻、卒業後、藤塚光男氏に師事し、2000年に京都・亀岡市に独立した。

初夏の装いを感じる染付の鉢、皿、碗などの新作が並んだ。同会場では3年振りの発表になるといい、初日には待ちわびた女性ファンたちが多く訪れたとか。
染付と並行し、鉄絵の仕事にも精力的に取り組んでいる。持ち前の軽やかさは鉄絵の絵付にもよく現れていて、それに染付の器との相性もとてもいいと感じられた。
使い勝手のよさそうな小鉢、中鉢は、2,625円~5,040円ほど、大鉢でも12,600円。食器棚にあれば使用頻度の高そうな中皿は、3,150円とまだまだお買い得感がある。
家庭ですぐに使えそうなサイズ、形ばかり40種類を越える総点数120点ほどの出品となった。瑠璃釉の作品は昨今新たに取り組んでいるものだ。

 本展の案内状には、緩やかに曲がる、これは陶のオブジェだろうか......? の写真が印刷されていて、続いてなかを開いて見ると、メリーゴーランドのように多くの動物たちが群れていた。
 なにごとか知れず、どんな作に出会えるかを期待して、会場に向かうと、そこには陶による「干支」が展示されており、新緑の季節ということもあって少し驚いた。
 昨今の滝口和男(TAKIGUCHI Kazuo)氏の主な仕事は、「無題」と呼ばれるシリーズ、手捻りによる食器制作、それに今回の干支もそこに含まれるだろう叙情的な陶の造形の、この3つのフィールドの間を縦横に往き来して活動している。ひとりの陶芸家のテリトリーとしては狭くなく、むしろ現在の創作の振幅はかなり広めで、とても積極的にみえる。
 やや薄暗く照明が落とされた会場内には、作者自らが型を起こして作ったという錫製の支柱のうえに、多様な表情の十二支たちが乗せられている。おとぼけ顔や、ユーモラスな形態を見せる動物たちが多く、いわゆる癒し系のキャラだ。サイズは支柱を含めても20センチ弱ほどの高さだが、このスケール感は、会場で作品を見てみないと実感としてつかみにくいかも知れない。小さな作ばかりとはいえ細工は緻密で、各々の作には意外な存在感も伴い、ミクロの作品世界と現実との感覚の奇妙なズレのようなものが味わえ不思議な感じがする。
 これら様々な表情をした作品の制作は、最初、言葉によってはじめられるという。「青空の上で」「新しい仲間と」「自由に」「自由は」「手仕事の」......など各テーマに沿ってそれぞれの状況を詳細に設定し、実制作に着手する。しかし、いったん言葉で決めたものではあるにせよ、作者は意識的に作りながら形を換え、展開させ、やがて言葉を越えていこうとする。言葉から発想しつつ、やがて言葉を離れていくことにより、ただのコンセプトとは異なる工芸的な強さや、面白さを見つけようとしているからだろう。
 なお、本展のサブタイトルは「自由に」とある。これは作者自身が、過去の自己から解放された、という意味にも受け取っていいと思った。

上左●抒情豊かな独創的世界を作り上げるのは、この作者の特徴の一面に過ぎない。

上右●日本陶芸展(第10回 1989年)に「無題」を出品し、大賞・秩父宮賜杯を得てからすでに20年のキャリアを積んできた作者。

京都などでは、干支を正月飾りとして飾る風習がまだ残っているという。伝統的に干支作りは、陶芸家としての仕事の範疇のひとつだ。
これまでも、とくにベテラン陶芸家によって個性的な干支が作られてきた。滝口氏もそんな作家たちに伍する年代に入ったようだ。
展示された作品のサイズは、大きなものでも支柱を含めて17、8センチほどの高さ。小さいながら大きな浪漫世界が拡がっている。
およそ25組の十二支が展示された会場。1組は各6点(子~巳、午~猪)をセットにし販売されている。発表価格は189,000円~115,500円ほどだ。
  • 2009年5月20日~2009年5月26日
  • 美和隆治 作陶展
  • 松坂屋本店 (名古屋市中区栄 TEL052-251-1111)

 美和隆治(MIWA Ryuji)氏のこれまでの主要な個展は、いつも本展会場で開催されてきたが、前回の個展が開かれてから4年を経て、やっとこの新作展に漕ぎつけている。もっとも、美濃古窯で古陶片を発掘しながらやきものの研究をはじめ、それから初個展が開かれたのは30年後だったことを思い起こせば、ファンにとっての4年間はそう長くないのかも知れない。
 今展でも仕事の中核となっている茶碗は、紫志野、紅志野、志野、絵志野、鼠志野、黄瀬戸、瀬戸黒、美濃伊賀、黒織部の9種類が出品の予定という。なかでもとくに人気があって注目されるのは、やはり紫や紅、赤などの志野碗だろう。とはいっても美和氏の作る志野は、焼成中に様々に窯変し、極めて変化に富んだ発色を見せるのが特徴であり、それが大きな魅力になっている。造形は意識的に歪ませることはあまりなく、やや横に拡がった形に独自性が際立っている。また、志野茶碗でもうひとつ注目したいのが鉄絵などの装飾だ。あるものは風に舞う葉のようにも見え、時に抽象絵画のようにも感じられ、別の絵では古代文字とも見紛え、興味深い。このことは、青年時代に洋画家として活躍していたキャリアと、決して無縁ではないと思える。
 もうひとつ本展で注目されるのは、タイトルに「作陶展」とあることだ。茶碗が中心の発表ではあるが、黄瀬戸や鼠志野、美濃伊賀などの花入に加え、灰釉の鉢、志野のぐい呑なども出品される予定だからだろう。とくに黄瀬戸を用いて竹の一重切の形を模した花入は、ためらいのない箆目が入った造形的な力強さと、竹の写実性が相俟って見どころの多い作に仕上がっている。枯淡の作域に入りつつも、一方で、作品に活き活きとした生命感が失われないのは、この作り手の執拗さだと感じる。総出品点数は30点あまりの予定、期待通りの新作展になりそうだ。

上左●「灰釉鉢」H17.2  W29.0㎝(発表価格は525,000円) 上右●「紫志野茶碗」H9.4 W14.0㎝(同787,500円) ともに2009年 

 同世代の女性陶芸家によるグループ展が開かれている。作者は朝倉晶(ASAKURA Akira)さん、岡野里香(OKANO Rika)さん、樺沢美子(KABASAWA Yoshiko)さん、野上薫(NOGAMI Kaoru)さんの4名だ。岡野さんのみは今回、陶芸の傍ら制作を続けているというバッグでの出品、他の3人は陶による器を発表している。本展の特徴は、テーマに「こども」が加わっていることで際立っている。展覧会としての切り口もそうだが、女性作家にとって子供を意識して創作するのは、とても自然で、しかも力強い制作の動機になると、改めて思わされた。
 たとえば、野上さんは大人と子供の揃いの器を作っていて、だが、子供用の鉢やカップには白化粧を施し、食べ物や飲み物の色を見えやすくするなど、きめ細かな配慮がある。紐作りによって生じた器形の微妙な凹凸は、ひょっとしたら子供の手に馴染むグリップになるかもしれない。また、可愛らしい陶箱に見える蓋ものを出品する朝倉さんによれば、それは実は、子供の「乳歯入れ」という。たまたま歯科医院で見たものに着想を得て、作者なりに創作したものだ。白化粧の皿の形は、誰にでも親しみが感じられるように花弁を意匠のベースとしている。それらは、陶芸家と母のふたつの鋭い感性が結び合わなければ、なし得なかった仕事だろう。
 子供と一緒に食事をしたり、花入と花を見たりする視点をとくに意識し、型成形による作を出品している樺沢さんは、本展タイトルの発案者だ。使えるものを作りたいと自身の制作の方向性をはっきりと定め、今回の釉による落ち着いた発色と、丸味を帯びた優しいフォルムには、テーマに沿った暖かな心遣いがにじみ出ているようだった。
 これら子供を意識した制作は、どの器にもとても現実的な工夫があり、しかもそれらが、三者三様の美意識と個性によって絡め取られ、違和感なく受け入れられる作品に仕上げられている。子供のための器作りの将来に、新たな可能性が拓ける濃厚な気配があると感じさせられた展覧だった。
上左●子供にも使える器という視点から制作された3人の作者の作品。計280点ほどの作が並んでいた。 上右●左より、作者の野上薫さん、樺沢美子さん、朝倉晶さん。

雰囲気ある白化粧に特徴がある朝倉さんの作。この蓋ものは「乳歯入れ」(発表価格は2,500~3,500円位)。1990年に武蔵野美術短期大学部卒業。めん鉢大賞展、日本クラフト展など入選。
野上さんの作は紐作りと叩きが成形の基本。信楽土の黒泥とぐるぐるの渦巻きに特色が見える。1988年に多摩美術大学絵画科陶芸コース卒業。日本クラフト展、朝日現代クラフト展など入選。
最近、とくに釉薬に関心があるという樺沢さんの作。本展出品作には10種類ほどの釉を使用した。1990年に武蔵野美術短期大学部デザイン科工芸デザイン専攻卒業。イギリスに留学し陶芸を学ぶ。
制作の手法は作者それぞれ異なるが、共通するのはどの作もとても丁寧に作り込まれているということだ。2,000~3,000円台が中心的な価格帯で、お買い得感もある。
  • 2009年4月 9日~2009年4月15日
  • 海田曲巷の茶杓
  • 池袋・東武 (東京都豊島区西池袋 TEL.03-3981-2211)

 おもに茶杓を削ってそれを生業としているという意味で、茶杓師などと呼ばれ、また数寄者ともいわれる海田曲巷(KAIDA Kyokko)氏の新作茶杓展を見た。
 茶杓といえば、茶人らが傍らに削って作ることはよく知られているが、自己表現として茶杓をもっぱら削っている作者となるとあまり聞かない。海田氏は30年ほど前から独学で削りはじめ、これまでも数多くの作を発表し、ニューヨークやロンドンなど海外でも高い評価を得ている作り手だ。
 作品は茶杓、筒、仕覆の3点セットがひと組になっていて、仕覆については上田晶子氏が素材選びから担当し、仕立まで行うという共同作業だ。
 茶杓の素材となる煤竹は、およそ200年ほど前のものが中心に使われ、一般には敬遠される虫喰いや曲がりがあるような、作者の興に訴えかけてくる材を探し出すのが要点になるという。なるほど作品を見てみると、明るい色から小豆色、また黒に近い竹まで様々ある。また材に入っている節や斑、曲がりなどの性質を景色に見立て、そのまま作品の主題とし巧みに活かされている。脇に置かれた筒には銘が書かれていて、どれにもウィットが効いており知的好奇心がくすぐられて面白い。
 仕覆に使われている素材は、日本、中国、アジア、ヨーロッパなど世界中のものだ。古くは中国製の500~600年前のもの、新しくても18、19世紀頃のヨーロッパで染め織られた裂が使われ、ここで新たな命を得ているようだった。
 これら海田氏の作品には、総じて茫洋とした暖かさが感じられ、ゆっくりと、しかし確実に伝わってくるユーモアが伴っているのが特徴といえるだろう。ひたすらなシャープさだけを求めようとしていないのが、これらの作の人気の秘密かも知れないと思った。落ち着いた美と上質な粋は、洋の東西を問わず受け入れられそうな気がした。
上左●「渡守」(発表価格147,000円) 上右●会場は男女問わず熱心に見入るファンで賑わっていた。

1946年福岡県生まれ。早稲田大学卒業。95年畠山記念館にて茶杓展。97年竹久夢二記念館にて茶杓展。2008年、ニューヨーク茶の湯展出品。東武、東急などで個展開催
50点ほどの作品が展示され、発表価格はおよそ10万円台~20万円台前半位までと手が届きやすい価格帯。
それぞれにつけられた銘の意味と、作品を見比べながら鑑賞するのもなかなか楽しい。
作者が設計・制作した移動式茶室「一睡庵」が会場に設えられた。
  • 2009年4月 8日~2009年4月18日
  • 佐藤和彦 陶展
  • ギャラリー田中 (東京都中央区銀座 TEL.03-3289-2495)

 土の質感をことさら強調しながら、他方、都会的な薫りのするデザイン性を打ち出した造形と装飾の、いわば"ミスマッチ"が魅力となって響き合う作を作り続けて定評のある、佐藤和彦氏の新作展がはじまった。
 もとはといえば、机上のデザインとは異なり、自らで触れ、削り、磨くことのできる陶芸に魅力を感じ、さらに、土に固有の質感を用いて表現することを創作のテーマとしてきた作り手だけに、その"ミスマッチ"も奥深く堂に入っている。
 本展出品作でいえば、素地土がちらちらと覗き見える程度に白化粧を施しておきつつ、その上から幾何学的な模様を描き、一部を透明感ある美しい青釉と金彩で装飾していく。いわば都市と山村が出会ったような、あるいは、機械と人間が手を握るような、暖かく冷たい不思議で独特な雰囲気を陶で作って見せていくのだ。また造形的な特徴としては、直線と曲線が混在した手捻りの魅力にあり、とくに壺や花入などの口作りには個性が現れている。それら口を仔細に見ていくと、直線と土を引き剥がした跡のような、ふたつの要素の切り口が重なった面白さがそこにある。......プラスとマイナス、熱さと冷たさなど、相反するものをひとつの作にまとめて一体化させ表現する佐藤陶芸の魅力は、本展においても遺憾なく感じることができ、興味深かった。
 なお、この作者にしてはめったに見られない半磁器土を用いて作られた小品が、およそ20点ほど出品されていて衆目を集めていたことも記録しておきたい。それらの作の今後の展開については未定ということだった。
上左●相反する要素が一体化し微妙な均衡をとる「青釉金彩壺」 

上右●「青釉金彩茶碗」。本展のテーマのひとつにもなった青釉は、ガラス質の透明感がありとても美しく感じる。

本展会場には、土ものの作がおよそ50点、半磁器土の作が約20点ほど出品されていた。
「青釉金彩筒蓋物」(発表価格36,750円)は、はじめて試みる半磁器土による作だった。
素材感を押し出しつつデザイン性も伴う「青釉金彩皿」(31,600円)は個性的で洒落ている。
なぜ磁器土を使ったかを作者に問うと、「たまたまそこに土があったからだよ」と煙に巻かれてしまった……。
  • 2009年3月31日~2009年4月 7日
  • 三上亮 展・JOY
  • 日本橋三越 (東京都中央区日本橋室町 TEL.03-3241-3311)
 近年開かれる三上亮氏の個展で発表される作品は、一見、同じ作者によるものと思えないほど多様だ。積極的に、個展毎に異なるテーマに取り組んでいるからだが、基本的な創作の目的はなにも変わっていない。
 どんな形をした、どのような装飾の作を作るかという以前に、まず「土を焼成することで、違ったものへと変容させなければやきものではない」という考えが、この作り手の原点にある。さらに「土を焼いて玉のようにする」のが、陶芸の醍醐味とも思っている。それらのことを念頭に、本展会場を巡ってみたい。
 今回の出品作はすべて、手捻りによって成形され、電気窯で焼成されている。表面の白い釉にも見える素材は、いわば化粧土と磁器土の中間のような存在という。それを高温焼成することによって変容させ、素地土との区別がなくなって一体感を伴うほどにするのが制作の狙いのひとつらしい。
 また、作品が白く見えることにこだわったのは、本展では雪景色を表現したかったからだ。ふわふわと降り積もった白く柔らかな雪景色と、他方、トルソーでは同様な雰囲気を持った女体を作って見せているのだ。造形的にとくに注目すべき点は、花器などの口作りと茶碗の高台作りだと感じた。どちらも自然な形に見えるようにまとめられながら、ところが作者は、強く意識を払って作為的に作っていることを鑑賞者に気づかせないように、実に用心深く仕事をしているのだ。
 十年一日の作陶が方々で見られる昨今、陶芸家としての本質的なテーマに取り組み、確実にステップを上がっているように感じられる三上亮氏の仕事からは、なかなか目が離せそうにないと思った。
上左●制約なく、自由な形を求めて制作された「Yokotawaru Torso」(発表価格は682,500円)。上右●雪景色をテーマにした「花器」H38.3㎝(241,500円)。口縁部と脚部には鉄が塗られポイントになっている。
今回の制作は、かなり自由に、手応えを感じながらやれたという作者・三上亮氏。
「茶碗」(210,000円)。どの茶碗も、個性的だが自然に感じられる高台の作りがとくにいいと感じられた。
この「花器」(168,000円)のように、口作りにデザイン的な処理を施した作も数点、出品されていた。
最近の三上展は、どんな新作が出品されるか予測不能、会場を訪れるのが楽しみだ。本展ではおよそ80点ほどの新作が展示された。
  • 2009年3月23日~2009年4月11日
  • 高橋奈己 展
  • SAN-AI-GALLERY (東京都中央区日本橋蛎殻町 TEL.03-5847-7714)

 掌のなかに包み込みたくなるように、優しげで、危うく、清潔感あふれた磁器の、緊張感漂う器を作る高橋奈己氏の新作展が開かれている。
 これらの作の成形方法は、手捻りでもなければロクロでもない。最初、油粘土によって原型を作り、それを元に石膏型を起こしては作る「型作り」による作品だ。イタリアのファエンツァ国立陶芸美術学校に留学中、この手法のよさを知ったという。もちろん型を用いて作っても、量産化を前提には考えていない。ならばなぜこの成型法かといえば、陶土を削って完成形を目指すより、油粘土を少しずつ付け加えて、いわば彫刻的なアプローチによってじっくりと器形を探る方が、断然作りいいと感じているからだ。本展にはおよそ120点ほどの新作が出品されており、そのために制作された型は56個という。
 作品の主なモチーフは植物の実など、自然のなかからヒントを見つけることが多いらしい。花のような、あるいは蕾とも思える形、果物の実にも似た作などがあり面白い。
 本展では赤い釉が掛けられた作も見られたが、基本的に色には関心がなく素材そのものの白が選ばれ、また、作品のサイズは作者の感覚に一致した作りやすい大きさを追求するうちに、徐々に小さくなったという。この微妙な作品サイズが、作品に独特の緊張を生む主因になっていると感じられた。
 これらの白い小さな磁器の器は美しく、緻密に、丁寧に仕上げられている。作者自身の内なる深みを探究しながら形作られ、独自の心象風景がそこに広がっていると思った。
上左●器だが鑑賞的な要素が強い作品が多い。左の作は7,800円、右は8,400円と値頃感もある。

上右●一部の土を欠いたことで、慈しみたくなるような表情を見せる「mi kakera」(発表価格は31,500円)

武蔵野美術大学短期学部専攻科陶磁器コース卒業後、ファエンツァ国立陶芸美術学校で学んだ作者。
繊細さや脆弱さ、清潔感などを見る者に訴えかける作品。左、8,400円、右、21,000円
実用的な皿。これらも型作りによって作られている。
通りに面した展示スペースに並べられた作品群。関心を示す歩行者も多いようだった。

 本展のサブタイトルには、「川小牧から生まれたもの」とある。川小牧とはもちろん、作者・加藤委(つぶさ)氏の工房がある岐阜県加茂郡富加町の地名のことだ。当地で20年ほど仕事を続けてきたが、今年、多治見市小名田町にある実家に制作拠点を移す前の、締めくくりの発表となるのにちなんでこの副題が添えられていた。
 出品作は、20年間のうちに40回ほど焼成を繰り返してきたという、愛用の薪窯焼成によるものが中心だった。陶土と磁器土を用いて作られた各々の作が、小品を含めておよそ150点ほど出品され、どちらもともに焼締めと施釉ものとが展示されていた。
 ガス窯で焼かれた、縁が包丁で切り取られた鋭利で美しい青白磁のイメージが残像としてあるが、今回は、薪窯でそれと同種の磁器土を焼締め、また青白磁釉を酸化焰で焼いて見せており、どちらも魅力があった。磁器土をロクロ成形で立ち上げながら、動的な造形を引き出すことに成功しており、花入などの口作りや、皿や鉢などの縁はあくまでもシャープに作られ好感がもてる。また、薄緑青色の釉の発色具合や、盤などに降った灰なども装飾として過不足ないように感じられた。
 一方の土ものの作も、動きのあるロクロ造形が冴え、崩れそうでいながら崩れない際どい均衡が保たれ、見ていると独特な緊張が伝わってくる。鉄絵による装飾は思うがまま、奔放にして嫌味がないのは、この作り手の天性のセンスによるものとしかいいようもない。いずれにせよ、自身の持つ固有の感覚を素材に沿わせながら形を探るのが、この作者ならではの制作手法であり、その意味で見事な一体化を示している痛快な新作展だった。

上左●縁作りにシャープさのある「川小牧白磁ドラ鉢」(発表価格は73,500円)。 上右●同会場では4回目の個展発表となる作者・加藤委氏。

見る者の気持ちをそそるように人懐っこい「鉄絵皿」(各8,400円)たち。
危うく絶妙な造形バランスと、小気味いい鉄絵が魅力の「鉄絵茶碗」(発表価格は52,500円)。
薪窯で焼くからこその雰囲気が出た「川小牧白磁焼〆花器」。
作者によって、20年間の川小牧での制作とその思いを振り返って書かれたものという。
  • 2009年3月24日~2009年3月30日
  • 寺本守 銀彩展
  • 日本橋三越 (東京都中央区日本橋室町 TEL.03-3241-3311)

 独自に創案した様々な作風を巧みに操り、これまでいくつもの人気シリーズ作を生みだしてきた寺本守氏の新作展が開かれている。
 本展では、それら定番の手法のうちのひとつ、銀彩にテーマが絞られ、壺型と縦長の花器、口部が広がった鉢などを中心に、およそ80点ほどが出品された。
 素地土はすべて佐賀県・有田産の磁器土が用いられ、どの作もロクロ成形により、この作者らしい端正な形にまとめられている。また、銀彩による装飾模様はといえば、ストライプと風に舞うリボンのような模様の2種だ。この風にリボン模様の着想は、草書体のかな文字を見ていて思いついてデザイン化したイメージといい、ストライプと好対照を示していてなかなか興味深い。それらどちらの模様の作も例外でなく、寺本作品に総じて共通した特徴として、造形も装飾もともにデザイン性の強調された都会的洗練のようなものが感じられる。土もの、磁器もの両方を軽やかに往き来し、焼締めから上絵、象嵌......と、実に器用に多彩な技法をこなしながらキャリアを積み重ねてきた名うての作り手でもある。
 茨城県笠間市に独立し、いつしか作陶歴も30年を越えた。本展以降、年齢的にも節目を迎えることから、これまでの作風をいったん忘れ、新たな大きな目標を掲げて制作に取り組む計画という。その一環として、来年中には新しいシリーズ作「須恵器風の灰釉作品」が、発表されるらしい。期待しながらその日を待ちたいと思う。

上左●「銀彩緑釉花器」。発表価格は300,000円 上右●昨今では、東日本伝統工芸展で鑑査員を務めるなど後進の指導にも当たっている作者。

「銀彩花器」。すっきりとまとめられる端正な形は寺本作品のひとつの特徴だ。
左の作品の部分。かな文字の草書体がこの模様の発想の原点になったらしい。
本展会場では初個展だ。今後も定期的に発表が続けられる予定という。
ストライプ模様を展開させ、ジグザグにした「銀彩花器」。